第7回 脳血管障害
代理で来局した訪問介護員から情報収集ができない
〇〇薬局 薬剤師 A先生
薬剤師の仕事にやりがいは持っているものの、患者さんの指導では戸惑うことが多く、先輩薬剤師からのアドバイスもどう活かしたらよいのか悩むことも多い。
Iさん:80代男性・担当の訪問介護員(ヘルパー)
脳梗塞治療後、在宅で療養中の独居の患者さん。これまで定期受診後に自ら来局していたが、今回は訪問介護員が代理で来局した。
解決のカギ:
情報収集のためのアプローチを検討する
今回は、脳梗塞の再発予防に向けて患者さん自身で服薬管理を行っていましたが、訪問介護員(以下、ヘルパー)が代理で来局するようになったケースです。介護保険サービスを利用した代理での薬の受け取りはケアプランのひとつに組み込まれている生活援助のひとつですが、ヘルパーが薬を受け取るとすぐに帰宅してしまい、情報の聞き取りなどができなかった経験を持つ薬剤師もいるのではないでしょうか。
脳梗塞後は介護保険サービスを利用することで、医療・介護の両面から患者さんの生活を支えることができます。訪問介護では薬の受け取りのほか、服薬時の見守りといった服薬介助をケアプランに組み込むことができますし、訪問看護では、服薬管理、服薬介助、副作用の有無の確認や報告などの服薬支援を受けることができます。薬剤師は、他職種と連携を図りながら患者さんが在宅で正しく服薬ができているか、管理は適切かといった情報収集を行うことが重要となります。
しかし、このケースでは、代理で薬を受け取りに来たヘルパーを引き留めて情報収集することは現実的に難しいことが多いと考えられます。まずは情報提供と情報収集のためのアプローチを考えてみましょう。
(1)メモや冊子による情報提供
「薬を取りに来ただけ」と話すヘルパーに何とか薬の説明ができたとしても正しく理解してもらうことは難しく、その情報が患者さんや家族に伝わるかどうかはわかりません。
すぐに患者さんの情報を入手できないときは、ひとまず患者さんに必要な情報が正しく伝わる手段を考えましょう。慢性疾患で同じ薬を処方されている場合でも、抗凝固薬などのハイリスク薬を処方されている脳梗塞の患者さんであれば、注意が必要な薬であることや出血時の対応などの重要なポイントだけはヘルパーを通じてきちんと伝えてもらう必要があります。「これは重要な情報なので、必ず患者さんにお渡しください」と話し、注意すべき副作用を簡潔にまとめたメモや指導箋などの冊子のポイントに印をつけて渡しましょう。ヘルパーにも負担をかけず、患者さんや家族に情報が伝わりやすいと考えられます。また、メモや冊子であれば、患者さんや家族がいつでも見返すことができます。
(2)電話によるヒアリング
患者さんまたは家族が電話対応可能な場合には、電話による聞き取りや服薬指導を検討します。また、訪問サービスに対応している薬局であれば、その際に居宅療養管理指導の利用を勧めましょう。
(3)居宅療養管理指導の利用
介護保険サービスを利用している患者さんの場合には、居宅療養管理指導費を算定することで薬剤師が自宅を訪問して服薬管理、指導などを行うことができます。主治医やケアマネジャーと連携して患者さんの生活の場で服薬状況を確認し、薬剤師の視点で患者さんに対してどのような服薬管理が必要なのかを検討します。薬剤師による居宅療養管理指導は介護保険を利用したサービスですが、サービス利用限度額(区分支給限度基準額)には含まれません。
患者さんの病状や身体機能に変化などがあった場合、サービス担当者会議を経てケアプランの見直しが行われます。ケアマネジャーとの連携ができていないと患者さんの状態やなぜヘルパーが来局するようになったのかがわかりません。主治医を通じて担当しているケアマネジャーとコンタクトを取るなどし、居宅療養管理指導の利用開始を伝えましょう。サービス担当者会議への参加が可能な場合には、連絡方法についても共有します。また、患者さんの病状や生活環境によっては、オンライン服薬指導が利用できる場合もあります。
(4)家族からの情報収集
訪問介護を利用している患者さんで、同居する家族が高齢で来局が難しい、または独居のケースでは、ヘルパーによる薬の受け取りがケアプランのなかに組み込まれていることが多いです。家庭の状況や利用している医療、介護サービスについてはあらかじめ確認しておきましょう。
そのうえで家族から情報収集が可能と考えられる場合には、ヘルパーに「お薬に関する大事な説明がありますので、ご本人の来局が難しい場合には一度ご家族の方に来局いただけるようにお伝えいただけますか?」と依頼しましょう。家族とのコンタクトが難しい場合はケアマネジャーに相談しましょう。
患者指導に役立つ+α
服薬に関連する一連の動作の観察ポイントを伝える
家族などの代理人が来局した場合には、患者さん本人との関係性を確認したうえで、患者さんの病状や現在受けている治療をどの程度把握しているかを聞き取りましょう。家族が同居しているのか独居かによっても患者さんの生活状況は異なりますし、同居している家族だからといって患者さんの病状や服薬状況を詳しく知っているとは限りません。
高齢の患者さんは時間の経過とともに、徐々に機能が低下してできないことが増えたり、負担が大きくなったりしていきます。また、「薬を飲む」と一言でいっても、そこにはさまざまな動作が入り、多くの機能を使います。患者さんの自立を尊重しながらどの動作にどんな介助が必要かを適切に評価するためには観察が重要です。家族に対しては、なぜここを見て欲しいのかといった理由も含めて伝えることで、これまで見逃していたことへの気づきを得られることがあります。
●服薬時の観察ポイント
患者さんが一人で服薬ができるかどうかを判断するためにはいくつかの観察項目があります。(1)包装を開ける、(2)薬を取り出す、(3)薬を口まで運ぶ、(4)薬を口のなかに入れる、(5)水と一緒に薬を飲み込むといった動作のいずれかができなくなるだけで、服薬は困難になります(表)。家族に薬を飲んでいる様子を観察してもらい、できない動作は何か、どの程度ならできるのかを確認してもらうようにアドバイスしましょう。
| 身体機能 | 機能低下による服薬への影響 |
|---|---|
| 視野・視力 |
・薬がどこにあるのかわからない
・薬かどうかを見分けにくくなる ・薬剤情報提供書や指導箋などの文字が読めない など |
| 聴力 |
・薬剤師による服薬指導が聞き取れない
・服薬介助をする人(家族、ヘルパーなど)の呼びかけが聞き取れない など |
| 認知機能 |
・薬を認識できない
・薬の種類や用法を忘れてしまう ・薬を飲んだかどうかを忘れてしまう など |
| 運動機能 |
・薬を包装から取り出すことができない
・開封後に手に取った薬を保持できない ・薬を口まで運べない など |
| 嚥下機能 |
・薬を飲み込むことができない
・薬や水をたびたび誤嚥してむせる など |
患者さんに関する情報収集で、家族から「薬を飲むのを嫌がっているようだ」と言われても、どんな理由で嫌がっているのかはわかりません。身体機能の低下で動作がしにくいと感じているのか、なにか不便さがあるのかなどをよく観察してもらうように伝えましょう。観察すべきポイントを明確に伝えることで、家族も服薬時にどこに注意して見守ればよいのかがわかりやすくなります。
そのなかで問題点を見出し、介助が必要なこと、補助具などの活用を提案することで患者さんが安心して服薬を継続することができます。
スキルアップアドバイス
脳梗塞の患者さんは、脳梗塞の分類(ラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症)や発症から急性期治療を開始するまでの時間経過などが後遺症の程度に影響します。また、障害を受けた脳の部位(病巣)によってもどのような後遺症が出るのかが変わります。脳梗塞は退院後1年以内の再発が多く、薬剤師が定期的なフォローアップを行い服薬アドヒアランスを向上させること、服薬の妨げになるものに配慮した管理を行うことが重要になります。対策の一例を紹介します。
●運動機能(麻痺)への対策
片麻痺がある人に対しては、薬を取り出しやすいように一包化などを検討しましょう。レターオープナーなどの補助具があると薬を取り出しやすくなります。患者さんは不便さを感じていても別の手段があるのかどうかもわからず、負担に思いながらも最初の服薬指導を守ろうとすることがあります。片麻痺のように薬剤師が観察できる後遺症を抱えている患者さんに対しては、「お薬を取り出しにくいと感じることはありませんか?」など、具体的に質問し、問題点を拾い上げることを心がけましょう。
また、小粒の薬剤のほうが飲みやすいと考えがちですが、麻痺などによって手指の巧緻性(こうちせい)が低下している患者さんの場合、かえって薬をつかみにくくなることがあります。剤形やサイズに注意するとともに、麻痺側でもつかめるように補助具の活用を検討しましょう。
●記憶障害への対応
記憶障害がある場合には、写真やイラストなどを用いて情報を伝えましょう。服薬カレンダーをセットして薬の管理を行う、薬を置く場所を決めておくといった対応が必要です。また、一度に多くの情報を伝えても覚えきれずに誤った行動につながってしまう可能性があるので注意しましょう。ケアマネジャー、ヘルパー、家族など、周囲の人にも対応の目的を共有しておくことが大切です。
●嚥下障害への対策
嚥下機能は継続的に評価することが重要となります。むせがたびたびみられるときには誤嚥しにくい姿勢(麻痺がある場合には健側を下にして30°程度の側臥位にする)を検討します。
また、水と固形物(薬剤)を同時に飲み込むと誤嚥が起こりやすくなるため、服薬ゼリーなどを使って飲み込みやすくする工夫をしましょう。
嚥下障害は、服薬のときだけでなく食事の際にも観察できます。脳梗塞の後遺症が食事時の動作にどのように影響しているかをみることが服薬支援のヒントになることがあります。食事は栄養バランスだけでなく、適切な食形態についてもアドバイスができるように、日ごろから情報収集と自己研鑽を重ねましょう。
●患者さんの生活をみる
在宅で生活する患者さんを支えるためには、患者さんだけでなく家族にも病識や薬識を高めてもらう働きかけが求められます。また、適切な支援を検討するためには、薬剤師が受け身にならず、積極的に患者さんの生活を知ろうとする姿勢を持つことが大切です。
<文献>
| ・ | 村尾孝子:患者さん対応のプロをめざす! 「選ばれる薬剤師」の接遇・マナー.同文舘出版,2017. |
| ・ |
厚生労働省:令和5年度厚生労働省委託事業「薬局における疾患別対人業務ガイドライン作成のための調査業務」 薬局における疾患別対応マニュアル~患者支援の更なる充実に向けて~【脳卒中】
https://www.mhlw.go.jp/content/001409754.pdf (2026年3月27日閲覧) |
| ・ |
厚生労働省:介護保険最新情報:介護保険におけるサービス行為ごとの区分等についての一部改正について
https://mitte-x-img.istsw.jp/roushikyo/file/attachment/306196/vol.637.pdf (2026年3月27日閲覧) |
| ・ |
厚生労働省:社会保障審議会 介護給付費分科会(第220回)資料5 居宅療養管理指導
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/001123921.pdf (2026年3月27日閲覧) |
| ・ |
NTTデータ経営研究所:令和6年度老人保健健康推進等事業 後期高齢者の服薬における問題と薬剤師の在宅患者訪問薬剤管理指導ならびに居宅療養管理指導の効果に関する調査研究事業報告書
https://www.nttdata-strategy.com/services/lifevalue/docs/r06_37_01jigyohokokusho.pdf (2026年3月27日閲覧) |
| ・ | 山下雄輔:脳神経ナースが薬剤投与・服薬管理で知っておくべき100のこと(2)症状別[麻痺].ブレインナーシング,メディカ出版,38(4):531-533,2022. |
| ・ | 山下雄輔:脳神経ナースが薬剤投与・服薬管理で知っておくべき100のこと(2)症状別[嚥下障害].ブレインナーシング,メディカ出版,38(4):531-533,2022. |
| ・ | 芦澤久美子:脳神経ナースが薬剤投与・服薬管理で知っておくべき100のこと(2)症状別[認知症・高次脳機能障害].ブレインナーシング,メディカ出版,38(4):537-541,2022. |
| ・ | 牧宏樹:特集 口腔機能低下症・嚥下障害のミカタ 多職種から学ぶ!服薬支援力を磨くヒント1 脳卒中の回復期1.薬局,南山堂,75(12):107-110,2024. |
| ・ | 田中広紀ほか:特集 口腔機能低下症・嚥下障害のミカタ 多職種から学ぶ!服薬支援力を磨くヒント2 脳卒中の回復期2―退院先を見据えた支援―.薬局,南山堂,75(12):110-113,2024. |
<取材協力・監修>
村尾 孝子先生
株式会社スマイル・ガーデン代表取締役
医療接遇コミュニケーションコンサルタント/薬剤師
明治薬科大学薬学部薬剤学科卒業、埼玉大学大学院経済学部経営管理者養成コース修了。病院、薬局、教育研修会社勤務を経て現職。総合病院薬剤部、漢方調剤薬局、調剤薬局で20年超の調剤、患者対応経験を積む。患者からの相談や指名も多く、その実績を活かして新入社員・後進の人材育成教育に注力。医療系教育研究会社、医療系専門学校などで人材教育・研修インストラクターとしての経験を積んだ後、2009年に株式会社スマイル・ガーデン代表取締役に就任。
この記事は2026年2月現在の情報です。

