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不整脈の分類

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不整脈は、狭義には徐脈性不整脈と頻脈性不整脈の2つ、広義には伝導障害と不整脈を引き起こす症候群を合わせた4つにわけられます。不整脈がどこで発生し、どのような病態を招いているかによってさらに細かく分類されます(表1)。

不整脈の男性患者
表1 主な不整脈の分類※1
徐脈性不整脈 洞不全症候群(I~III群)
房室ブロック(第1~3度)
頻脈性不整脈 上室性 洞頻脈
心房期外収縮
心房細動
心房粗動
心房頻拍
発作性上室頻拍
心室性 心室期外収縮
心室頻拍
トルサー・ド・ポアンツ
心室細動
伝導障害 脚ブロック(右脚・左脚ブロック)
分枝ブロック(左脚前枝・後枝ブロック)
2枝ブロック
3枝ブロック
不整脈を引き起こす症候群 WPW症候群
ブルガダ症候群
QT延長症候群

徐脈性不整脈

徐脈性不整脈の代表的なものに洞(機能)不全症候群、房室ブロックがあげられます。

●洞不全症候群

洞不全症候群は、洞結節またはその周囲の障害によって起こるもので、次のI~III群に分類されます(表2)。

表2 洞不全症候群の分類
分類 特徴
I群
(単純な洞徐脈)
心拍数が50(40)回/分以下の徐脈が持続するもので、健康な人にも現れることがある
II群
(洞停止または洞房ブロック)
洞結節の機能が一時的に停止し、電気興奮が伝わらなくなり、心房の興奮が起こらないもの(洞停止)。洞結節は機能しているものの、電気興奮が洞結節周囲の心房筋でブロックされ、心房の興奮が起こらなくなるもの(洞房ブロック)
III群
(徐脈頻脈症候群)
頻脈性不整脈が止まった後に洞結節が機能しなくなり、数秒間拍動が停止してしまうもの

●房室ブロック(1度~3度)

房室ブロックは、房室接合部の刺激伝導系の障害によって起こるもので、次の1度~3度にわかれます(表3)。

表3 房室ブロックの分類
分類 特徴
1度 ・洞結節で発生した電気興奮が房室接合部(房室結節とヒス束)に伝わった際に、そこでの伝導が単に遅くなるもの
2度 ・ 電気興奮が房室接合部で1拍ごとに徐々に遅くなって心室の興奮が脱落してしまうもの(ウェンケバッハ型房室ブロック)
・ 電気興奮が房室接合部で突然に伝わらなくなって心室の興奮が脱落してしまうもの(モビッツⅡ型房室ブロック)
・ 電気興奮が2回に1回の頻度で心室へ伝わらなくなるもの(2:1型房室ブロック)
・ 電気興奮が3回に1回以上の頻度で心室へ伝わらなくなるもの(高度房室ブロック)
・ 電気興奮が突然に長時間に渡って心房から心室へ伝わらなくなるもの(発作性房室ブロック)
3度 ・電気興奮が心房から心室へ完全に伝わらなくなるもの(完全房室ブロック)。電気興奮が途絶えても、多くの場合、心拍を補うために補充調律が生じて心室の興奮は保たれる

※補充調律:心房から心室への電気興奮が途絶えたとき、心室を興奮させるために自発的に電気が発生するしくみ

頻脈性不整脈

頻脈性不整脈は、電気興奮が発生する部位や旋回する部位によって上室性不整脈と心室性不整脈にわかれます。

●上室性不整脈

上室(洞結節、心房、房室結節)で発生した異常な電気興奮によって不整脈が生じるものです。洞頻脈は、安静時の心電図で心拍が100回/分以上になるもので、健康な人にも起こります。

心房期外収縮:正常なリズムよりも早いタイミングで洞結節以外の心房の部位から電気興奮が発生するものです。原因は心疾患の既往、疲労、ストレス、睡眠不足、喫煙、加齢などさまざまです。

心房細動:心房内のさまざまな部位で無秩序に異常な興奮旋回が生じるもので、一般的には頻脈傾向となりますが、時として徐脈傾向となることがあります。脈拍がバラバラになるのが特徴です。心疾患や呼吸器疾患の既往がある人に起こりやすく、心臓に負担がかかることが原因とされています。

心房細動についての解説はこちら

心房粗動:三尖弁の周囲で興奮旋回が生じるもので、心房は約250~300回/分の周期で規則的に収縮します。原因は心房細動とほぼ同じです。

発作性上室頻拍:心房、房室結節、異常伝導路などが関与して興奮旋回が生じるもので、多くの場合、心拍数が150回/分以上の規則正しい頻脈となります。突然に起こって突然に止まるのが特徴です。

●心室性不整脈

心室で発生した異常な電気興奮によって不整脈が生じるものです。

心室期外収縮:心房の興奮がないまま、正常なリズムよりも早いタイミングで心室からの電気興奮が発生してしまうものです。健康な人でも起こることがありますが、心筋梗塞や心不全などの心疾患がある場合には、心室期外収縮から、危険な心室細動や心室頻拍に移行することがあります。

心室細動:心室内で無秩序に異常な興奮旋回が生じるもので、心室が細かく震えるけいれん状態になり、全身に血液を送り出せなくなります。心臓のポンプ機能が果たせなくなることで、心臓突然死を引き起こします。不整脈の中でもっとも危険な不整脈です。

心室頻拍:心室内である程度規則性が保たれている興奮旋回が生じるもので、持続すると心拍出量が減少して脈が触れなくなります。自然に治まることもありますが、持続すると心室細動に移行して心臓突然死の原因にもなります。

トルサー・ド・ポアンツ:心室頻拍の特殊なタイプで、QT時間の延長に伴って生じます。多くは30秒以内で自然に停止しますが、持続あるいは反復して出現すると心室細動に移行して心臓突然死を引き起こします。

伝導障害

伝導障害は、心室内の刺激伝導系(脚・分枝)の障害によって起こるもので、その障害部位によってわけられています(図1)。

図1 右脚と左脚

心臓の右脚と左脚

●脚ブロック(右脚・左脚ブロック)

右脚または左脚で電気興奮が伝わらなくなるものです。右脚ブロックは完全と不完全にわけられます。右脚ブロックは心疾患の既往がなくても起こります。一方、左脚ブロックは心筋梗塞や心筋症など何らかの心疾患が原因となって起こります。

●分枝ブロック(左脚前枝・後枝ブロック)

左脚前枝または後枝で電気興奮が伝わらなくなるものです。右脚前枝ブロックは心疾患の既往がなくても起こりますが、左脚後枝ブロックは何らかの心疾患が原因となって起こることが多いです。分枝ブロックは、右脚ブロックや1度房室ブロックと併存して起こることがあります。

●2枝ブロック

右脚ブロックに加えて、左脚前枝または後枝ブロックのどちらかを伴ったものです。

●3枝ブロック

2枝ブロックに加えて1度房室ブロックを伴ったものです。

不整脈を引き起こす症候群

先天的あるいは遺伝的な要因で心電図異常をきたし、それが原因で不整脈を起こすものです。WPW症候群、ブルガダ症候群、QT延長症候群などがあります。

●WPW症候群

先天的に伝導が速い副伝導路(ケント束)を有することで、発作性上室頻拍を引き起こすものです。安静時の心電図でデルタ(Δ)波を認めます。心房細動を合併すると偽性心室頻拍をきたして心臓突然死を引き起こすことがあります。

●ブルガダ症候群

遺伝的な要因が関与して、突然に心室細動を引き起こすものです。安静時の心電図で前胸部誘導において凸(コーブド)型ST上昇と陰性T波を認めます。夜間や早朝に起こりやすいという特徴があります。

●QT延長症候群

遺伝的あるいは後天的な要因で、トルサー・ド・ポアンツを引き起こすものです。安静時の心電図でQT時間の延長を認めます。遺伝性は若年者に多く、後天性は薬剤や電解質失調が原因となって生じます。

心電図についての解説はこちら

<文献>

※1  池田隆徳:特集 不整脈:診断と治療の進歩 I.病態と診断の進歩 1.不整脈の種類と分類.日本内科学雑誌,日本内科学会,95(2):196−202,2006.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/2/95_2_196/_pdf
(2023年9月29日閲覧)
日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf
(2023年9月29日閲覧)
日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf
(2023年9月29日閲覧)
池田隆徳監:いちばん親切な モニター心電図の読み方.新星出版社,2019.
杉薫監:これで安心!不整脈〜脳梗塞・突然死を防ぐ.高橋書店,2013.
若松雄治:特集 もうドキドキしない!薬剤師のための心電図と不整脈のはなし 心臓の生理学と聞くとドキドキが止まらない人のための心拍のはなし② 不整脈になったらどうなる?なにが困る?.薬局,南山堂,73(11):18-22,2022.
網野真理・吉岡公一郎:特集 もうドキドキしない!薬剤師のための心電図と不整脈のはなし 心臓の生理学と聞くとドキドキが止まらない人のための心拍のはなし③ QT延長ってなんだ?徐脈ってどうなるの?.薬局,南山堂,73(11):54-60,2022.
日比野将也:救急ナースがゼッタイ押さえておきたい重要疾患25 不整脈(徐脈・頻脈).Emer−Log,36(1):42−45,2023.
古川哲史:違いがわかる 不整脈 抗不整脈薬・抗凝固薬を整理する 不整脈のこと,どれだけ知っていますか? 不整脈になりやすいのは誰?.レシピプラス,南山堂,19(3):19-22,2019.

東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授

池田 隆徳先生

1986年東邦大学医学部卒業。東邦大学医学部第三内科助手、米国シーダス・サイナイ医療センター&UCLA留学を経て、2002年杏林大学医学部第二内科講師に就任。同大学助教授(准教授)、教授を務めた後、2011年東邦大学大学院医学研究科循環器内科学、同医学部内科学講座循環器内科学分野教授に就任。翌2012年に同大学医療センター大森病院循環器センター長に就任。2024年に同大学医学部長・大学院医学研究科長に就任し、現在に至る。国際ホルターノンインベイシブ学会理事長、国際心電学会常務理事、日本循環器学会理事、日本不整脈心電学会理事、日本心血管協会理事長、日本心臓病学会代議員、日本内科学会評議員、日本心血管脳卒中学会役員などを務める。専門分野は循環器内科学(不整脈・心電学)。

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