薬剤師が知っておきたい「心電図」の基本
薬剤師は、患者さんの基礎疾患や薬剤性の不整脈リスクを把握し、予防的な視点での介入時には受診勧奨をする役割が求められます。基本的な「心電図」の知識をもつことで、患者さんの病態への理解が深まり、指導内容の充実にもつながります。
心電図の種類
心電図は、患者さんの状態や目的によって使いわけられます。不整脈の診断に使われているのは主に12誘導心電図とホルター心電図ですが、症状の出方や不整脈発作の頻度などにより、その他の心電図検査を行うことがあります(表1)。
種類 | 検査実施時 | 検査時間 | 特徴 |
---|---|---|---|
12誘導心電図 | 安静 (臥位) |
1分 | ・ 健康診断や心疾患および不整脈の診断目的で行われる標準的なスクリーニング検査
・ 記録時間が短い |
ホルター心電図 | 日常生活の場面 | 1日~2週間 | ・ 発作性の不整脈の検出や、不整脈の頻度および重症度の評価目的で行われる
・ 心疾患の評価は難しい |
運動負荷心電図 | 運動中~運動後 | 20~30分 | ・ 労作時(運動時)に誘発される心疾患や不整脈の診断目的で行われる
・ 装置が大きいため実施できる施設が限られる |
モニター心電図 | 安静 | 数日 |
・ 心電図がリアルタイムで描写されるため、不整脈の経過観察に用いられる
・ 用途は不整脈の検出のみに限られる |
イベント心電図 | 日常生活の場面 | 発作時 | ・ 症状発生時に心電図を記録するもので、発作性の不整脈の検出目的で行われる
・ 症状のない不整脈の検出は不可 |
●携帯型または装着型の心電計
医療機関で行う心電図検査以外に、携帯型または装着型の心電計の普及が進んでいます。スマートフォンやスマートウォッチを用いた心電図記録をはじめ、医療機器としては未承認ながら、ネックレスや指輪、着用型(Tシャツ)などのタイプがあります。
スマートウォッチなどを活用した携帯型心電計は、あくまでも医師が検査の必要性の判断や診察を行ううえでの参考指標のひとつです。日常的な健康管理や受診勧奨への寄与が期待されるものの、確定診断には従来の心電図検査が必須となります。
心電図波形の異常をとらえる
●基本の正常波形と心電図の読み方
心臓では、刺激伝導系を介しての電気興奮が絶えず繰り返されています。その一連の活動は心電図の波形となって表されます(図1)。
図1 正常な心電図波形(例)
心電図を記録すると、ここで示した心電図の基本の波形が連続してみられます。心電図上の個々の波形は、次のような現象を反映しています(表2)。
波形 | 特徴 |
---|---|
P波 | 洞結節から出た電気興奮が心房を興奮させることで反映される波形。P波が始まる部分が心臓の拍動のスタート地点となる |
QRS波 | 心室を興奮させることで反映される波形。下向きのQ波、上向きの大きなR波、下向きのS波からなっている。心室は心房に比べて心筋が厚く、収縮する際の興奮が心房に比べて大きいため、波も大きく計測される |
T波 | 心室での興奮からの回復を反映する波形。QRS波の後に起こる緩やかな波形は心室の興奮がゆっくりと冷めていく様子を示している |
U波 | T波の終了時にみられる波形で、みられないことのほうが多い |
PQ間隔 | 心房が興奮し始めてから(P波の開始)心室の心筋が興奮し始めるまで(Q波の開始)の時間である。房室接合部(房室結節・ヒス束)の伝導時間を反映する時間として用いられる |
QT間隔 | 心室が興奮し始めてから(Q波の開始)回復するまで(T波の終了)の時間である。心室の興奮からの回復を反映する時間として用いられる |
ST接合部分 | S波の終了からT波開始までを示すものである。虚血性心疾患などの診断に用いられる |
●心電図から理解する不整脈
心電図では拍動のリズムをR波で確認することができます。心電図のR波と次のR波の間隔が一定であれば、リズムに乱れはなく、逆にR波と次のR波の間隔の差が最大で20%以上ある場合には、リズムの乱れが起きていると判断されます。RR間隔が広い場合には徐脈、狭い場合には頻脈となります(図2、3)。
図2 徐脈の心電図(例:洞徐脈)
※洞徐脈は健康な人にも起こることがあるもので、P波、QRS波、T波は規則性があるものの、RR間隔が長くなります(安静時の心拍数50回/分以下)
図3 頻脈の心電図(例:洞頻脈)
※洞頻脈は健康な人にも起こることがあるもので、P波、QRS波、T波は規則性があるものの、RR間隔が短くなります(安静時の心拍数100回/分以上)
●突然死の原因となる不整脈
突然死の原因となる不整脈は、心室細動や心室頻拍のように心室で起こるものが多くを占めます(図4、5)。
図4 心室細動の心電図(例)
形の崩れた幅広いQRS波形がきわめて速く
かつ不規則に出現しています
図5 心室頻拍の心電図(例)
形の保たれた幅広いがQRS波形が速く出現しています
薬の副作用による不整脈への対応
薬の副作用としての不整脈をとらえるためにも、薬剤師による介入が必要な心電図波形の特徴を理解することが重要です。薬の中止や減量、変更の検討が必要となる心電図変化としては次のようなものがあげられます(表3)。
心電図の変化 | 発現する事象 |
---|---|
QT時間の延長 | 0.5秒以上に延長する場合(トルサー・ド・ポワンツの発現) |
QRS幅の拡大 | 0.14秒以上に延長する場合(心機能の低下) |
PR時間の延長 | 0.22秒以上になる場合(1度房室ブロック) |
PP時間の延長 | 50回/分に減少する場合(洞徐脈) |
●いざというときのための一次救命処置
病棟や薬局内だけでなく、薬剤師の活躍の場は在宅医療にも広がっています。医療従事者として突然の心停止に遭遇する機会があることから、突然の心停止に対する一次救命処置の実践能力が求められています。
突然の心停止の多くが心室頻拍から心室細動に至るケースとされています。心室細動や無脈性心室頻拍に対しては、AED(自動体外式除細動器)を用います。地域の講習会などに参加するなど、いざというときに使えるようしておくことが大切です。
<文献>
・ | 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2020年改訂版不整脈薬物治療ガイドライン
http://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/01/JCS2020_Ono.pdf (2023年9月29日閲覧) |
・ | 日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン:2022年改訂版不整脈の診断とリスク評価に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2022/03/JCS2022_Takase.pdf (2023年9月29日閲覧) |
・ | 厚生労働省:「家庭用心電計プログラム」及び「家庭用心拍数モニタプログラム」の適正使用について
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/01/academyinfo20210129.pdf (2023年9月29日閲覧) |
・ | 池田隆徳:特集 不整脈:診断と治療の進歩 I.病態と診断の進歩 1.不整脈の種類と分類.日本内科学雑誌,日本内科学会,95(2):196−202,2006.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/95/2/95_2_196/_pdf (2023年9月29日閲覧) |
・ | 池田隆徳監:いちばん親切な モニター心電図の読み方.新星出版社,2019. |
・ | 杉薫監:これで安心!不整脈〜脳梗塞・突然死を防ぐ.高橋書店,2013. |
・ | 木俣元博・原田直美・橋本賢一:特集 もうドキドキしない!薬剤師のための心電図と不整脈のはなし 心臓の生理学と聞くとドキドキが止まらない人のための心拍のはなし①知ってるつもり?心電図の種類とわかること.薬局,南山堂,73(11):43-47,2022. |
・ | 笹隈富治子監・編集:薬剤・検査データの読み方改訂7版薬剤師のための臨床検査の知識.じほう,2019. |
・ |
日本心臓財団:家庭用心電計を上手に利用しよう 家庭用心電計と心房細動
https://www.jhf.or.jp/check/ecg/fibrillation/ |
・ | 祖父江嘉洋・渡邉英一:特集 不整脈の診療 Ⅲ.診断 着用型心電計(スマートウオッチ含む)の種類とその活用.日本臨牀,日本臨牀社,80(1):36−41,2022. |
・ | 大八木秀和:薬剤師よ、心電図を読もう!.南山堂,2013. |
・ | 平出敦・田口博一・窪田愛恵編:薬剤師のための動ける!救急・災害ガイドブック在宅から災害時まで、いざというときの適切な処置と役割.羊土社,2016. |
東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授
池田 隆徳先生
1986年東邦大学医学部卒業。東邦大学医学部第三内科助手、米国シーダス・サイナイ医療センター&UCLA留学を経て、2002年杏林大学医学部第二内科講師に就任。同大学助教授(准教授)、教授を務めた後、2011年東邦大学大学院医学研究科循環器内科学、同医学部内科学講座循環器内科学分野教授に就任。翌2012年に同大学医療センター大森病院循環器センター長に就任。2024年に同大学医学部長・大学院医学研究科長に就任し、現在に至る。国際ホルターノンインベイシブ学会理事長、国際心電学会常務理事、日本循環器学会理事、日本不整脈心電学会理事、日本心血管協会理事長、日本心臓病学会代議員、日本内科学会評議員、日本心血管脳卒中学会役員などを務める。専門分野は循環器内科学(不整脈・心電学)。
この記事は2024年8月現在の情報となります。