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不整脈の非薬物治療

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不整脈の非薬物治療は、大きくわけて(1)カテーテルアブレーション、(2)植込み型電気心臓デバイス、(3)外科的心臓手術があります。非薬物治療の進歩により、不整脈の治療は大きく変わりました。

体内に植込み型電気心臓デバイスがある男性

カテーテルアブレーション

カテーテルアブレーションは、不整脈の原因となる部位を、カテーテルを用いて焼灼(アブレーション)する治療法です(図1)。

1994年に保険適用されて以降、診断・治療システムの開発に伴って、急速に普及しました。高周波による焼灼のほか、バルーンカテーテル(冷凍凝固、高周波ホット、レーザー)を使う方法もあります。

カテーテルアブレーションによる治療の対象となるものは、心房細動、心房粗動、発作性上室性頻拍、心室頻拍などの頻脈性不整脈です。なかでも心房細動の治療として多く行われています。薬物治療の場合、継続的に薬を服用する必要があるのに対し、カテーテルアブレーションは不整脈の根治が望める治療であることが大きなメリットです。

図1 心房細動に対するカテーテルアブレーション

心房細動に対するカテーテルアブレーション

●カテーテルアブレーションの実際

カテーテルアブレーションでは、まず数本の電極のついたカテーテルを大腿および鎖骨や首の静脈から挿入して心臓内に留置し、不整脈の起源または回路を同定します。その後に、起源または回路の一部を焼灼専用の電極カテーテルの先端から電流を流して熱(約50~60℃)焼灼を行い、標的とした心筋のみを壊死させる治療法です。1回の通電で半径5mm前後の心筋が焼灼されます。

カテーテルアブレーションはレントゲンの透視下で行うため、透視時間が長くなるほど医療被曝のリスクが高くなります。しかし、電位情報などの位置を表示する3次元マッピング装置の情報、さらにCTやMRIの3次元イメージを統合させる診断・治療システムの開発により、正確な解剖学的情報を得ることができるようになりました。これによって、カテーテル操作が安全に行えるようになり、施術時間が大幅に短縮しました。

心房細動についての解説はこちら

植込み型電気心臓デバイス

植込み型心臓電気デバイスも不整脈の非薬物療法の柱のひとつとなっています。

● ペースメーカ

ペースメーカは症状を有する徐脈性不整脈(洞不全症候群や房室ブロックなど)の治療の第一選択となることが多いです。その機序は、脈拍を感知するとペーシング(電気興奮)を自動的に行い、リズムを正常に維持することです(図2)。

図2 リードつきペースメーカ

リードつきペースメーカ

近年のペースメーカは、小型化・電池寿命の長期化が進んでおり、その機能も多岐にわたっています(表1)。

表1 ペースメーカの種類
リードつきペースメーカ 局所麻酔でリードと呼ばれる導線を鎖骨下の静脈を介して右心室(および右心房)に挿入し、ペースメーカ本体を患者さんの胸上部の皮膚の下に植込む
リードレスペースメーカ 局所麻酔でリード線がないカプセル型の小型本体を右心室に直接植込む
※ 右心房には電気興奮を与えることができないため、適応に限りがある

近年は遠隔モニタリングシステムが普及し、ペースメーカ植込み術後に患者さんが心房細動や心室頻拍などを起こした場合、その情報が医療機関に転送されるようになっています。患者さんの来院が不要で、迅速に情報を収集して対応することが可能となっています。

ペースメーカ装着後の患者さんの注意点

ペースメーカは作動状況を定期的に確認する必要があります。また、徐脈自体を解消することはできるものの、徐脈を引き起こす状態が改善したわけではないため、規則正しい生活を送り、基礎疾患などの治療を継続することが重要です。また、ペースメーカ手帳を常に携帯し、必要なときに提示することを伝えます。

日常生活で使用する電子機器のなかには、IH調理器やマッサージチェア、携帯電話など、使用にあたって注意が必要なものがあります。屋外では、電気自動車の急速充電器や無線機などの使用は避ける必要があり、小売店の電子商品監視機器やICカード読み取り機などでも動作に影響が出る可能性があります。事前に医師や看護師などの医療従事者、ペースメーカのメーカー担当者などに相談するように指導します。

●植込み型除細動器(ICD)

植込み型除細動器は、心室頻拍・心室細動などの致死性不整脈を停止させ、心臓突然死を防ぐデバイスです。ICDにおいても小型軽量化や多機能化、遠隔モニタリングシステムなどが開発され、手術の手技や術後の管理も標準化されています(図3)。

図3 植込み型除細動器(ICD)

植込み型除細動器

鎖骨下の静脈を介して心臓内に植込んだリードが心室頻拍・心室細動を検出すると、高頻拍ペーシング(ATP)や電気ショックを行ったりして頻拍を停止させます。また、脈が遅れている場合にはペーシングで一定以上の心拍数を確保します。ただし、電気ショックの機能があるため、ICDはペースメーカに比べて本体、リードとも大きいです。

ICDには皮下植込み型除細動器(S-ICD)もあります。こちらは電気ショック機能のみを有するものです。リード挿入による穿孔などの合併症やデバイスに関連する菌血症などを防ぐことができます。リードは胸骨下の皮下に植込み、本体は左脇の下から背中にかけての筋肉の間に植込みます。静脈からリードを心臓に通すことができない患者さんや若年の患者さん、従来のICDを抜去した患者さんなどで行われることが多いです。

日常生活での注意点は、ペースメーカとほぼ同様で、電子機器の使用に注意が必要となります。

<文献>

日本循環器学会・日本不整脈心電学会合同ガイドライン:不整脈非薬物治療ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/07/JCS2018_kurita_nogami.pdf
(2023年9月29日閲覧)
池田隆徳:2021年度日本内科学会生涯教育講演会Bセッション 不整脈に対するガイドラインに準じた治療戦略.日本内科学会雑誌,日本内科学会.111(3):511-518.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/111/3/111_511/_pdf
(2023年9月29日閲覧)
近藤秀和・高橋尚彦:違いがわかる 不整脈 不整脈治療古今東西 2不整脈の非薬物療法.レシピプラス,南山堂,19(3):58-62,2019.
杉薫監:これで安心!不整脈〜脳梗塞・突然死を防ぐ.高橋書店,2013.
中原志朗:特集 もうドキドキしない!薬剤師のための心電図と不整脈のはなし 心臓の声を読み解く!薬剤師にも役立つ心電図の話⑥ 不整脈に非薬物治療で立ち向かう!〜カテーテルアブレーション治療,ペースメーカ,植込み型除細動器(ICD)〜.薬局,南山堂,73(11):76-80,2022.
小池秀樹・藤野紀之・池田隆徳:特集 不整脈の診療 III.診断 アブレーションカテーテルの種類とその活用法.日本臨牀,日本臨牀社,80(1):61−66,2022.
丁野美智:困ったシーンの会話から学ぶ!心疾患の病態・治療・ケア 現場で役立つキーワード集 植込みデバイス.35(11):63−75,2022.
総務省:電波と安心な暮らし 電気が植込み型医療機器におよぼす影響〔携帯電話・PHS端末〕編
https://www.soumu.go.jp/soutsu/hokuriku/img/denpa/kanshi/pamphlet1-03.pdf
(2023年9月29日閲覧)

東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授

池田 隆徳先生

1986年東邦大学医学部卒業。東邦大学医学部第三内科助手、米国シーダス・サイナイ医療センター&UCLA留学を経て、2002年杏林大学医学部第二内科講師に就任。同大学助教授(准教授)、教授を務めた後、2011年東邦大学大学院医学研究科循環器内科学、同医学部内科学講座循環器内科学分野教授に就任。翌2012年に同大学医療センター大森病院循環器センター長に就任。2024年に同大学医学部長・大学院医学研究科長に就任し、現在に至る。国際ホルターノンインベイシブ学会理事長、国際心電学会常務理事、日本循環器学会理事、日本不整脈心電学会理事、日本心血管協会理事長、日本心臓病学会代議員、日本内科学会評議員、日本心血管脳卒中学会役員などを務める。専門分野は循環器内科学(不整脈・心電学)。

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