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虚血性心疾患の発症機序と症状

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虚血性心疾患の発症機序

虚血性心疾患は、冠動脈の狭窄や閉塞によって血流が不足したり途絶えたりすることにより、心筋に酸素が行き届かなくなることで発症します。発症原因として冠動脈の動脈硬化と、蓄積したプラークの破裂などによる血栓や痙攣などがあげられます。

●冠動脈に生じる血栓

虚血性心疾患の発症原因となる動脈硬化はアテローム性(粥状)動脈硬化です。血液中のコレステロールは、肝臓を通して体外に排出されますが、高血圧などが原因で冠動脈の血管内膜に傷がついていると、傷からコレステロールが入り込んで、本来は沈着しないはずの血管内膜に沈着して結晶化し、プラークとなります。

さらに血管壁が厚くなって蓄積したプラークが破裂すると、そこを修復するために血小板などが集まって血栓が形成されます。この血栓が大きくなると血管の内腔が狭くなったり詰まったりして、心筋に酸素が十分行き届かなくなります(図1)。

図1 動脈硬化と血管の閉塞

動脈硬化と血管の閉塞

また、プラークの破裂がなく発症するケースに、びらんがあります。内皮細胞が剥離することによって血管が狭窄や閉塞に至るとされています。

●血栓症以外の原因で起こる虚血性心疾患

血管の動脈硬化が進んでいない箇所でも一時的に心筋への血流が不足することがあります。その原因として冠動脈の痙攣(スパズム)があげられます(図2)。痙攣によって冠動脈が部分的に狭くなることで血流が低下します。

図2 冠動脈の痙攣による血流の低下

冠動脈の痙攣による血流の低下

冠動脈の痙攣は、喫煙やアルコールの大量摂取、寒さ、ストレスなどによって、血管壁を構成する血管平滑筋細胞の過収縮、冠動脈の血管内皮の一酸化窒素産生低下による機能障害、血管外膜の周囲細胞組織の炎症などが起こることが原因といわれています。

また、冠動脈の痙攣が起こることで、血液が凝固しやすくなったり、血小板が活性化しやすくなったりするため、血栓ができやすくなり、それが心筋の虚血の原因になることもあります。

●冠動脈の病態と心筋の障害

虚血性心疾患には、「心筋梗塞」と「狭心症」がありますが、冠動脈に生じている病態と心筋の壊死の有無の両面でみることが重要です。狭心症でも、不安定狭心症の病態は心筋梗塞と似ており、冠動脈にプラークの破裂が生じている、あるいは生じるリスクが高い状態であるとして、心筋梗塞と不安定狭心症は、急性冠症候群として扱います(表1)。

表1 急性冠症候群とその他の虚血性心疾患
冠動脈 心筋壊死 疾患名
不安定 ST上昇型急性心筋梗塞
非ST上昇型急性心筋梗塞
× 不安定狭心症
安定 × 労作性狭心症(安定狭心症)

は急性冠症候群、は慢性冠動脈疾患

虚血性心疾患の症状

虚血性心疾患では、心筋の壊死や冠動脈の狭窄に伴う胸痛や胸部絞扼感をはじめとする症状が出ます(図3)。

図3 虚血性心疾患が疑われる主な症状

虚血性心疾患が疑われる主な症状

また、心筋梗塞と狭心症では症状、持続時間に違いがあります(表2)。

表2 心筋梗塞と狭心症の症状の違い
心筋梗塞 狭心症
胸痛の強さなど ・重苦しく強い痛み
・焼けつくような激しい痛み
・胸が締めつけられるような痛み
・動悸・息切れ
症状の持続時間 20分以上※1 長くても15~20分※1
※胸痛の持続が20秒以下の場合は狭心痛の可能性は低い

症状としては心筋梗塞のほうが強く出るのが一般的で、強い胸の痛みが続く場合には一刻も早く治療を受ける必要があります。また、しばらく安静にして症状が治まった場合でも放置せず、早期に医療機関を受診し、検査、診断を受けることが重要です。

<文献>

※1  日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
(2023年8月28日閲覧)
伊苅裕二:特集虚血性心疾患 日常診療から専門医による治療まで虚血性心疾患の疫学,病態,検査 安定狭心症,不安定狭心症,心筋梗塞の病態.診断と治療,111(4):461-464,2023.
伊苅裕二:誰も教えてくれなかった心筋梗塞とコレステロールの新常識.南江堂,2018.
厚生労働省e-ヘルスネット:狭心症・心筋梗塞などの心臓病(虚血性心疾患)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/metabolic/m-05-005.html
(2023年8月28日閲覧)
日本循環器学会/日本心血管インターベンション治療学会/日本心臓病学会:2023年JCS/CVIT/JCCガイドライン フォーカスアップデート版冠攣縮性狭心症と冠微小循環障害の診断と治療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_hokimoto.pdf
(2023年8月28日閲覧)
小西貴博・武部弘太郎:救急ナースがゼッタイ押さえておきたい重要疾患25 急性冠症候群(ACS).Emer−Log,36(1):42−45,2023.
中ノ上ともみ:特集 困ったシーンの会話から学ぶ!心疾患の病態・治療・ケア 現場で役立つキーワード集 虚血性心疾患.Heart
nursing,35(11):1002-1015,2022.

東海大学医学部内科学系循環器内科 教授

伊苅 裕二先生

1986年名古屋大学医学部卒業。三井記念病院内科レジデント、東京大学医学部第一内科助手を経て、1996年米国ワシントン州立大学病理学への留学。1999年三井記念病院循環器内科科長を務めた後、2005年東海大学医学部循環器内科教授、2010年同循環器内科領域教授、診療科長に就任。1995年に橈骨動脈専用のガイディングカテーテル「IKARI curve」を開発(1999年に米国、2001年欧州でIkariカテーテル特許を取得)。日本内科学会認定医・指導医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医・指導医。

この記事は2023年9月現在の情報となります。

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