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虚血性心疾患の治療(3)虚血性心疾患の二次予防

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急性冠症候群患者さんの発症1年以内のイベント発生率は、冠動脈疾患患者さん全体の年間イベント発生率(4.5~15人/1000人)と比べ、2倍以上にのぼるという報告もあります※1~3。また、心筋梗塞を起こした患者さんは左室収縮力を失うことで心機能が悪化し、心臓リモデリングが起こりやすくなります。虚血性心疾患の二次予防と合わせて心臓リモデリングや心不全を防ぐことが重要となります。

脂質低下療法

脂質を下げることは、虚血性心疾患の二次予防の基盤といえるものです。二次予防におけるLDLコレステロールの管理目標値は、70mg/dL未満と設定されていますが※4、この数値を維持することよりも、もとのLDLコレステロールからどれだけ値を下げられるかが重要といわれています。そのため、二次予防におけるLDLコレステロール管理目標値は、ひとつの目安としてとらえておくとよいでしょう。

薬を服用する男性

● LDLコレステロールの管理~一次予防と二次予防の違い~

現在、国内での冠動脈疾患の一次予防における脂質管理目標値は、高リスクの人(10年間動脈硬化症発症リスク10%以上)でLDLコレステロール<120mg/dL、 non-HDLコレステロール<150mg/dL、トリグリセライドは<150mg/dL、<175mg/dL(非空腹時)、HDLコレステロール≧40mg/dLで、その他のリスク因子を含めて包括的に管理することが一次予防につながるとされています※5

しかし、虚血性心疾患やアテローム血栓性脳梗塞の既往がある患者さんは、一次予防の対象ではありません。患者さんがLDLコレステロールの管理目標値を一次予防の数値で理解していることもあるため、両者の意味の違いについても正しい理解を促すことが重要です。
*non-HDLコレステロール=総コレステロール(TC)-HDLコレステロール

●二次予防におけるスタチン使用

二次予防においては、80歳以上、慢性透析患者さん、心不全の活動期にある患者さんを除き、個々の患者さんが使用できる最大用量のストロング・スタチン(アトルバスタチン、ピタバスタチン、ロスバスタチン)の使用が第一に推奨されています。

血圧の管理

血圧の管理も虚血性心疾患の既往がある患者さんの予後を改善することがわかっています。家庭血圧は収縮期血圧平均125mmHg未満が目標であるため、自宅での血圧管理について指導を行い、決まった時間に計測し、記録する習慣をつけられるように、患者さんの生活状況を聞き取ったうえで、計測のタイミングなどについて具体的なアドバイスが必要です。

心筋梗塞の既往がある高血圧患者さんについては、ACE阻害薬が第一選択となり、労作性狭心症の既往がある場合にはβ遮断薬、冠攣縮性狭心症の既往がある場合にはCa拮抗薬などが使われます。患者さんの病態や併存疾患などを把握することで、医師がなぜその降圧薬を処方しているのかが理解できるようになり、服薬指導にも活かせます。

降圧薬の特徴についての解説はこちら

糖尿病の管理

中長期的にみると、糖尿病がある急性冠症候群患者さんの心血管イベントの発症は、非糖尿病患者さんに比べて高いことがわかっています。二次予防における糖尿病治療においては、心血管イベントの減少効果や薬剤の特性、患者さんの背景などを総合的に判断して薬を選択します。

慢性腎臓病(CKD)

慢性腎臓病(CKD)がある人が心筋梗塞を発症すると、予後が悪いといわれています。また、心筋梗塞を起こしたことにより、腎機能が低下しやすくなるといわれており、腎機能を保ちながら心機能の低下を防ぐことが重要となります。

禁煙

喫煙は、血管の内皮機能障害や酸化ストレス、血小板凝集による血栓リスクなどの原因となり、虚血性心疾患のリスクを高めます。また、加熱式タバコにおいてもそのリスクを上昇させる可能性が指摘されており、二次予防において禁煙は不可欠なものです。実際に急性冠症候群発症後に禁煙をした患者さんは、喫煙を継続した患者さんに比べて心筋梗塞発症の相対リスクが0.57に低下したという報告があります※6

患者さんのなかには、主治医の指示のもと、禁煙外来など専門の医療機関で禁煙治療に取り組むことがあります。禁煙外来では、カウンセリングのほか、禁煙補助薬を使った治療を行います。禁煙が継続できている患者さんに対しては称賛したり、励ましたりすることも、患者さんの禁煙成功率を高めることにつながります。

また、同居家族のなかに喫煙者がいると、受動喫煙のリスクも高まります。家族にも二次予防の重要性を理解してもらい、禁煙に協力してもらえるように働きかけを行います。

禁煙のカウンセリングを受ける患者

虚血性心疾患の二次予防において最も重要なのはコレステロールの管理ですが、その発症リスクとなる疾患はほかにもあり、コレステロール値だけを下げればよいというわけではありません。継続的な併存疾患の管理や禁煙などの生活指導といった包括的な治療・支援により、急性冠症候群の発症予防やQOLを向上させる症状緩和、心臓リモデリングや心不全の進展予防をはかっていくことが重要になります。

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心不全の薬物療法についての解説はこちら

<文献>

※1  Matsuzaki M, Yokoyama M, Saito Y, et al. JELIS Investigators. Incremental effects of eicosapentaenoic acid on cardiovascular
events in statin-treated patients with coronary artery disease. Circ J 2009; 73: 1283–1290. PMID: 19423946 983.
※2  Furukawa Y, Taniguchi R, Ehara N, et al. CREDO-Kyoto Investigators. Better survival with statin administration after
revascularization therapy in Japanese patients with coronary artery disease: perspectives from the CREDO-Kyoto registry. Circ J 2008; 72: 1937–1945. PMID: 18948669 984.
※3  Mabuchi H, Kita T, Matsuzaki M, et al. J-LIT Study Group. Japan Lipid Intervention Trial. Large scale cohort study of the
relationship between serum cholesterol concentration and coronary events with low-dose simvastatin therapy in Japanese
patients with hypercholesterolemia and coronary heart disease: secondary prevention cohort study of the Japan Lipid Intervention
Trial (J-LIT). Circ J 2002; 66: 1096–1100. PMID: 12499612
※4  日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※5  日本循環器学会:2023年改訂版冠動脈疾患の一次予防に関する診療ガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_fujiyoshi.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※6  Chow CK, Jolly S, Rao-Melacini P, et al. Association of diet, exercise, and smoking modification with risk of early cardiovascular events after acute coronary syndromes. Circulation 2010; 121: 750–758. PMID: 20124123
日本心臓財団:今月のトピックス 虚血性心疾患 誰も教えてくれなかった心筋梗塞の新常識
https://www.jhf.or.jp/topics/2019/007960/
(2023年8月28日閲覧)
藤井秀毅・西慎一:慢性腎臓病における冠動脈疾患の特異性.日本内科学会雑誌,日本内科学会.105,818-824,2016.
日本薬剤師会・国立がん研究センター がん対策情報センターたばこ政策研究部:禁煙支援分野における薬剤師の役割・業務に関する報告 平成23年度「薬剤師の禁煙支援の取り組みに関するアンケート調査」結果.2012.
長野明日香・石井正和ほか:禁煙支援における薬局薬剤師の役割に関する医師へのアンケート調査.日本禁煙学会雑誌,12(1):21-29,2017.

東海大学医学部内科学系循環器内科 教授

伊苅 裕二先生

1986年名古屋大学医学部卒業。三井記念病院内科レジデント、東京大学医学部第一内科助手を経て、1996年米国ワシントン州立大学病理学への留学。1999年三井記念病院循環器内科科長を務めた後、2005年東海大学医学部循環器内科教授、2010年同循環器内科領域教授、診療科長に就任。1995年に橈骨動脈専用のガイディングカテーテル「IKARI curve」を開発(1999年に米国、2001年欧州でIkariカテーテル特許を取得)。日本内科学会認定医・指導医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医・指導医。

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