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虚血性心疾患の治療(4)生活指導のポイント

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虚血性心疾患の発症後は、生活面の見直しも重要となります。二次予防においては、肥満や体重管理を行うことが重要であるため、適切な運動、食事についての理解を促し、規則正しい生活が送れるように支援することが重要となります。

体重管理の重要性

肥満に関連する疾患の発症リスクが最も低いのは、BMI(体重/身長〔m〕2)で算出された標準体重「22」を目標・管理することといわれており、BMI≧25の肥満の人は体重管理が必要です※1

二次予防においては、正常体重(18.5≦BMI<25)の維持が重要で、肥満の患者さんは3~6か月間で3%以上の体重減少が目標となります※1。患者さんのなかには、「体重を落とせばよい」と考える人もいますが、やせすぎも死亡リスクが高くなるといわれているため、注意が必要です。

体重計に乗る女性

● 非高齢者のメタボリックシンドローム

非高齢者の場合は、BMIだけでなく、メタボリックシンドロームにも注意が必要です。体重では肥満に該当しない患者さんでも、ウエスト周囲径が男性で85cm以上、女性で90cm以上の場合は肥満となります。肥満に該当する場合にはウエスト周囲径で3%以上の減少を3~6か月かけて行います※1。体重やウエスト周囲径の減少は、血糖値や血圧の上昇、脂質の増加といった虚血性心疾患再発リスクの改善につながります。

運動の効果

虚血性心疾患の治療後に心臓リハビリテーションを継続することは、心血管イベントによる死亡率の低下、入院リスクの低下につながることがわかっています。また、心臓リハビリテーション以外でも運動を継続的に行うことで次のような効果も期待できます。

・体力が回復、向上して息切れなどの症状が軽くなる

・筋肉量の増加に伴い、日常生活動作が楽に行えるようになるため、心臓への負担が軽減する

・心機能が改善する

・血管が拡張し、血液の流れがよくなる

・動脈硬化の進展を防ぐ

・血圧が低下する

・血糖値が改善する

・不整脈の発症リスクが軽減する

・日常生活でできることが増え、生活の質(QOL)が向上する

入院中は、医師や理学療法士などの医療従事者のもとに急性期の心臓リハビリテーションを行いますが、自宅に戻ってからも継続することが重要で、外来心臓リハビリテーションは8~24週の継続が推奨されています※1

ただし、外来心臓リハビリテーションの保険適用期間は最大で150日となっています※2。その後は心臓リハビリ指導士や健康運動指導士などが運動指導を行う地域の運動施設を利用するなど、患者さんの自己管理と運動の継続が必要となります。運動の継続を支援する声がけなどによって患者さんが二次予防に前向きに取り組めるようになることは、服薬管理も含めた患者さんの自己管理能力の向上にも役立ちます。

ストレッチをする人々

運動は、中等度以上(3メッツ以上)の有酸素運動を中心に毎日合計30分以上を目標にします。まとめて30分実施できない場合には1日10分を3回にわけて行うなど、無理なく継続できる方法をアドバイスするとよいでしょう。また、有酸素運動のほかにレジスタンス運動や柔軟運動を行うことが望ましいとされています。座りっぱなしを避け、活動的な生活を送ることで消費エネルギー量は増加します。

食事の基本

エネルギーは、タンパク質、脂肪、炭水化物からつくられます。減量が必要な人は、エネルギー摂取(食事)と消費(身体活動)のバランスを見直し、エネルギー摂取量を身体活動に応じた必要エネルギー量より下回るようにします(図1)。ただし、極端な食事制限は筋肉量の減少や、やせ過ぎの原因になるため注意が必要です。

図1 推定エネルギー必要量と身体活動レベルに応じた活動内容(成人(18歳以上))※3

●推定エネルギー必要量(kcal/日)=基礎代謝量(kcal/日)×身体活動レベル

【参照体重における基礎代謝量(18歳以上)】

【参照体重における基礎代謝量(18歳以上)】
性別 男性 女性
年齢(歳) 参照体重(kg) 基礎代謝量(kcal/日) 参照体重(kg) 基礎代謝量(kcal/日)
18~29 64.5 1,530 50.3 1,110
30~49 68.1 1,530 53.0 1,160
50~64 68.0 1,480 53.8 1,110
65~74 65.0 1,400 52.1 1,080
75以上 59.6 1,280 48.8 1,010

【身体活動レベル別にみた活動内容と活動時間の代表例】

【身体活動レベル別にみた活動内容と活動時間の代表例】
身体活動レベル 低い(I) ふつう(II) 高い(III)
1.50
(1.40~1.60)
1.75
(1.60~1.90)
2.00
(1.90~2.20)
日常生活の内容 生活の大部分が座位で、静的な活動が中心の場合 座位中心の仕事だが、職場内での移動や立位での作業・接客等、通勤・買い物での歩行、家事、軽いスポーツのいずれかを含む場合 移動や立位の多い仕事への従事者、あるいはスポーツ等余暇における活発な運動習慣を持っている場合
中程度の強度(3.0~5.9メッツ)の身体活動の1日当たりの合計時間(時間/日) 1.65 2.06 2.53
仕事での1日当たりの合計歩行時間(時間/日) 0.25 0.54 1.00

*代表値。(  )はおよその範囲

●食品の選び方

多くの食品から栄養を摂ることを心がけることで、ビタミンやミネラルなどをバランスよく摂ることができます。
肉類の脂身や鶏肉の皮、ラード、バターなどの飽和脂肪酸を抑え、n-3系多価不飽和脂肪酸がとれる青魚を献立に多くとりいれる工夫が必要です。また、食物繊維が豊富な食品(玄米、豆類、野菜、海藻、きのこなど)を積極的に摂ることで、噛む回数が増えるため満腹感が得られやすくなり、食べすぎを防ぐことにつながります。

また、血圧が高い人は減塩食が基本です。1日の塩分摂取量を6g未満に抑えましょう※3。調味料を減塩タイプのものに変更したり、スパイスを活用した献立にしたりするなかで、薄味に慣れていくことができます。

飲酒量を減らす

アルコールはエタノール換算で25g/日以下にとどめます※4。毎日飲酒する習慣があった人は、お酒を飲まない日、いわゆる休肝日を設けることも大切です。

質の高い睡眠をとる

睡眠時無呼吸症候群(SAS)は心不全の発症や増悪と関連することが知られているように、心機能の低下を防ぐためにも睡眠の質を意識することが大切です。

また、就寝時間や起床時間をできるだけ理想の睡眠時間に近づけるようにし、生活リズム全般を整えるようにアドバイスすることも必要です。適切な睡眠時間には年齢や個人差がありますが、睡眠時間は6時間以上8時間未満に設定し、決まった時間に起床することを心がけます※5。十分に眠ったはずなのに熟眠感がない、夜間に何度もトイレに行くため、眠りが浅いという場合にはSASをはじめとする睡眠障害の可能性があるため、受診を勧めることも重要です。

就寝、起床時間を基盤に生活リズムを整え、食事内容の見直しをはかり、運動の習慣化や節酒などを行うことが血管、心臓を守ることにつながります。生活指導においては、患者さんの生活状況を把握したうえで、それに即した対策やアドバイスをすることが大切です。

<文献>

※1  日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※2  日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会:2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※3  厚生労働省:「日本人の食事摂取基準(2020年版)」
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※4  日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_3_230210.pdf
(2023年8月28日閲覧)
※5  厚生労働省:健康づくりのための睡眠指針2014
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-10900000-Kenkoukyoku/0000047221.pdf
(2023年8月28日閲覧)
厚生労働省e-ヘルスネット:脂質異常症(実践・応用)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/food/e-02-013.html
(2023年8月28日閲覧)
農林水産省:脂質やトランス脂肪酸の基本的な情報
https://www.maff.go.jp/j/syouan/seisaku/trans_fat/t_kihon/index.html
(2023年8月28日閲覧)
日本心臓リハビリテーション学会:よくあるご質問 心臓病の運動療法について
https://www.jacr.jp/faq/faq-list/exercise_therapy/
(2023年8月28日閲覧)
大貫慧介・和田裕雄・谷川武:総説(循環器病予防総説シリーズ27:要因編12) 睡眠と循環器疾患
https://www.jacd.info/library/jjcdp/review/56-3_01_onuki.pdf
(2023年8月28日閲覧)
日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
(2023年8月28日閲覧)

東海大学医学部内科学系循環器内科 教授

伊苅 裕二先生

1986年名古屋大学医学部卒業。三井記念病院内科レジデント、東京大学医学部第一内科助手を経て、1996年米国ワシントン州立大学病理学への留学。1999年三井記念病院循環器内科科長を務めた後、2005年東海大学医学部循環器内科教授、2010年同循環器内科領域教授、診療科長に就任。1995年に橈骨動脈専用のガイディングカテーテル「IKARI curve」を開発(1999年に米国、2001年欧州でIkariカテーテル特許を取得)。日本内科学会認定医・指導医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医・指導医。

この記事は2023年9月現在の情報となります。

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