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二次予防における薬剤師の役割

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虚血性心疾患の二次予防では、服薬管理が重要となります。薬剤師には患者さんに服薬の必要性を正しく理解してもらうための働きかけが求められるとともに、長期的な服薬管理となることから、患者さんの認知機能や手段的日常生活動作(instrumental activities of daily living:IADL)の状況などを定期的に評価し、患者さんの服薬アドヒアランスの向上をはかることが重要です。

虚血性心疾患の服薬管理における課題

心筋梗塞の発症後、80%以上の服薬遵守率で心血管イベントの低下に寄与するという報告があり※1、服薬アドヒアランスの低下は、治療効果を減弱させる要因にもなります。急性冠症候群の発症または再発を防ぐためには、さまざまな種類の薬剤を使うことに加え、複数の疾患が併存していることが多いため、服薬管理における薬剤師の役割が重要となります。

服薬管理ができず困っている男性

●多様な服薬アドヒアランス低下の要因

独居の高齢者と就労世代の中高年では、服薬アドヒアランスが低下する要因は同じとは限らず、それぞれのアドヒアランス低下の要因に合わせた個別性の高い対応をすることが重要となります。たとえば、独居の高齢者であれば認知機能や摂食嚥下機能、手段的日常生活動作(IADL)の低下が服薬管理の困難さにつながっていることもあります。患者さんが服薬を継続するうえでどのようなことに困っているのかを引き出し、その解消に向けて働きかける必要があります。

患者さんや家族からの情報収集のポイント

患者さんが治療の必要性について十分な理解がないと、服薬アドヒアランスは低下しやすくなります。患者さんが疾患やその治療を正しく理解しているかどうか、薬物療法の必要性についてどのように認識しているかなどを服薬指導の際に確認します。

●LDLコレステロールが正常範囲でもスタチンが処方される理由

虚血性心疾患はそのリスクとなる病態、疾患が多く、なかには糖尿病や高血圧が背景にあるものの、LDLコレステロールは一次予防の基準値内という患者さんもいます。この場合でも、虚血性心疾患の二次予防ではスタチンが処方されるのが一般的です。

虚血性心疾患発症前の自身の血液検査の結果から「LDLコレステロール値は正常」と認識している患者さんは、「コレステロールは正常値なのになぜ薬を飲むのか」「私にはこの薬は必要ないのではないか」「コレステロールは身体に必要だと聞いたことがあるが、これ以上下がっても大丈夫なのか」などと、不安を感じることがあるでしょう。

しかし、虚血性心疾患の二次予防においては、LDLコレステロールを下げることは、死亡率を下げる効果があることがわかっています。これはコレステロールが高い患者さんだけでなく、コレステロールが正常値の患者さんでも同様で、死亡率の低下には、もとの数値からいかにコレステロールを下げることができるかがポイントになります。虚血性心疾患の再発は突然死に直結するため、情報を丁寧に伝え、患者さんが納得して治療を継続できるようにサポートしましょう。

●生活習慣の聞き取りを具体的な指導に活かす

虚血性心疾患の患者さんの服薬では、患者さんの生活習慣も影響することがあります。たとえば、入院中は飲酒ができない環境にありますが、これまでの生活で、夕食時の晩酌を楽しみにしていた患者さんでは、退院後、再び夕食時の晩酌習慣が戻ってしまうことがあります。

虚血性心疾患の再発を防ぐためには、節酒の指導も重要ですが、夕食時の晩酌習慣は服薬に影響する可能性が高い点にも留意する必要があります。飲酒量を減らす指導だけでなく、夕食後の服薬はできているか、飲み忘れが多い場合には夕食前の服薬が可能かどうかを検討するなど、退院後の生活状況を細かく聞きとり、指導に活かすことが大切です。

服薬アドヒアランス向上のための工夫

服薬する薬の数が多く、飲み忘れが生じる場合には、一包化による対応が効果的です。服薬回数の多さもアドヒアランス低下につながるといわれていますが、服薬のタイミングは食事を目安にすることが多いため、食事の時間と回数をふまえて検討し、飲み忘れがないように服薬カレンダーを常に目に見えるところに掲出しておくなどの工夫をする指導が必要です。

服薬指導をする女性

●錠剤の数を減らすことも検討

患者さんにとって毎日多くの薬を内服することは負担となります。一包化も服薬アドヒアランスの向上につながりますが、1回に服用する薬の数(錠剤の数)が多いことも患者さんの服薬アドヒアランス低下の要因になることがあります。患者さんが負担を感じている場合には、医師に情報を共有し、チームで検討することが重要です。

<文献>

※1  S Bansial, Jose M Castellano et al: Assessing the Impact of Medication Adherence on Long-Term Cardiovascular Outcomes. J Am Coll Cardiol. 2016 Aug 23;68(8):789-801.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/27539170/
(2023年8月28日閲覧)
伊苅裕二:誰も教えてくれなかった心筋梗塞とコレステロールの新常識.南江堂,2018.
日本循環器学会:急性冠症候群ガイドライン(2018年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2018/11/JCS2018_kimura.pdf
(2023年8月28日閲覧)
菅原隆文ほか:虚血性心疾患患者に対する服薬アドヒアランス評価.日本病院薬剤師会雑誌,57(5):530−534,2021.
坪井謙之介ほか:服薬アドヒアランスに影響を及ぼす患者の意識調査.医療薬学,38(8):522−533,2012.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jjphcs/38/8/38_522/_pdf
(2023年8月28日閲覧)
日本老年医学会、日本医療研究開発機構研究費・高齢者の薬物治療の安全性に関する研究研究班:高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/info/topics/pdf/20170808_01.pdf
(2023年8月28日閲覧)
小山晶子ほか:地域在住高齢者の服薬管理の工夫と服薬アドヒアランス.日本看護科学会誌,42:176-185,2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jans/42/0/42_42176/_pdf/-char/ja
(2023年8月28日閲覧)
秋下雅弘:第51回日本老年医学会学術集会記録〈教育講演〉高齢者の服薬管理.日本老年医学会誌,47:134-136,2010.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/geriatrics/47/2/47_2_134/_pdf
(2023年8月28日閲覧)
日本老年医学会編:改訂版健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス.154,2019.
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/handbook2019.pdf
(2023年8月28日閲覧)

東海大学医学部内科学系循環器内科 教授

伊苅 裕二先生

1986年名古屋大学医学部卒業。三井記念病院内科レジデント、東京大学医学部第一内科助手を経て、1996年米国ワシントン州立大学病理学への留学。1999年三井記念病院循環器内科科長を務めた後、2005年東海大学医学部循環器内科教授、2010年同循環器内科領域教授、診療科長に就任。1995年に橈骨動脈専用のガイディングカテーテル「IKARI curve」を開発(1999年に米国、2001年欧州でIkariカテーテル特許を取得)。日本内科学会認定医・指導医・総合内科専門医、日本循環器学会専門医、日本心血管インターベンション治療学会名誉専門医・指導医。

この記事は2023年9月現在の情報となります。

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