PDF

脳血管障害とは

PDF

脳血管障害は、脳血管が閉塞したり破裂したりすることによって脳に障害が発生し、意識障害や片麻痺といった神経症状を呈する疾患です。突然発症することから脳卒中とも呼ばれ、その多くを占めるのが、脳梗塞、脳出血、くも膜下出血です。脳血管障害は治療の進歩に伴い、1970年代をピークに死亡率は減少していますが、後遺症が残ることも多く、要介護となる原因では認知症に続き第2位となっています※1 。また、再発しやすいのが特徴です。

激しい頭痛を感じる男性

脳の構造と機能

脳はヒトの身体の司令塔の役割を担っており、身体の運動や知覚などの神経を介する情報伝達を統括しています。また、意識や感情などの精神活動においても重要な役割を担っています。

解剖学的に、脳は、大脳、脳幹(中脳、橋(きょう)、延髄)、小脳の3つの部分に分けられます(図1)。

図1 脳の構造

脳の構造

●大脳

左右の大脳半球で構成された大脳は、それぞれ前頭葉、頭頂葉、側頭葉、後頭葉の4つの脳葉に分けられます。脳の深部には5つめの脳葉である“島(とう)”があります。脳葉の表面は多くの神経節細胞を含む大脳皮質からなっており、部位によってさまざまな機能を持っています(図2、表1)。

図2 大脳の部位

大脳の部位
表1 大脳の各部位の役割
部位 役割
前頭葉
  • 脳のほかの部位からの情報を統合して行動を適切に制御する
  • 身体の各部分を動かす
  • 情動や痛みなどの情報を集めて感情を制御する など
頭頂葉
  • 空間把握、分析、処理などを行う
  • 自分の身体の動きを感じ取る
  • 触覚、痛み、熱さなどの皮膚からの刺激を感じ取る など
側頭葉
  • 耳から入ってくる情報を分析、処理し、理解する
  • 会話を理解する
  • 物事を記憶する など
後頭葉
  • 目から入ってくる情報を分析、処理し、理解する など

●脳幹、小脳

脳幹は、中脳、橋、延髄からなり、小脳は脳幹の後ろにあります。

脳幹は大脳、脊髄、小脳を結ぶ神経線維の通り道で、生命を維持するうえで欠かせないものです。また、小脳は四肢の動きやバランスの調節などの役割があり、大脳から送られる運動の指示に対し、小脳が筋肉をコントロールして動かしています。

●脳血管(動脈)

脳は生命を維持するためのあらゆる活動にかかわっており、脳に血液を届ける動脈が障害されると、その動脈から血液を受ける脳の部位の機能障害が起こり、運動や感覚などの異常が起こります。
脳に血液を送り込む入口となっているのが左右にある内頸動脈と椎骨動脈です。左右の椎骨動脈は脳幹の手前で合流し、脳底動脈となります。また、内頸動脈系と椎骨動脈系は脳底部でつながっており、上から見ると六角形の輪のようになっています。これをウイリス動脈輪といいます(図3)。

図3 脳血管(動脈)

脳血管

ウイリス動脈輪は内頸動脈と椎骨動脈をつなぐ側副血行路になっています。ウイリス動脈輪があることで脳への血液の供給路である内頸動脈と椎骨動脈のうち、どちらか一方が詰まった場合でも、もう一方の側副血行路から灌流されるため、血流は弱くはなるもののすぐに途絶えることはありません。ただし、完全なウイリス動脈輪を持つ人は少なく、患者さんによっては側副血行路が働きにくい人もいます。

脳血管障害の種類

脳血管障害には大きくわけて動脈が閉塞して発症する虚血性脳血管障害(脳梗塞、一過性脳虚血発作)と動脈が破裂して発症する出血性脳血管障害があり、さらにそれぞれの病型に分類されます(図4)。脳梗塞は多くの病型からなっており、代表的なものにラクナ梗塞、アテローム血栓性脳梗塞、心原性脳塞栓症があります。なお、神経症状が24時間以内に完全に消失し、MR画像でも病巣を認めない場合には一過性脳虚血発作(TIA)と診断します。一方で出血性脳血管障害には脳出血やくも膜下出血があります。

図4 脳血管障害の種類

脳血管障害の種類

脳血管障害の危険因子

脳血管障害の危険因子は、修正可能なものと修正不可能なものがあります。修正不可能なものとしては、年齢、性別などがあります。発症率が上昇するのは男女ともに55歳以降で、男性は女性よりもリスクが高いとされています。

脳血管障害のもっとも大きなリスクであり、修正可能なものが高血圧です。また、糖尿病や脂質異常症、心疾患の既往、肥満などがあると動脈硬化が進みやすくなり、脳血管障害のリスクは高くなります。このほか、睡眠時無呼吸症候群(SAS)や慢性腎臓病(CKD)などもリスクになることがわかっています。

●高血圧

血圧が高い人ほど脳血管障害の発症率が高いため、降圧治療の継続は発症予防において必須といえます。脳血管障害の一次予防においては、食事や運動などの生活習慣、降圧薬の服用などにより、血圧を130/80mmHg未満(家庭血圧では125/75mmHg未満)に保つことが重要です。ただし、75歳以上の高齢者や蛋白尿のないCKD患者さんでは降圧目標140/90mmHg未満(家庭血圧135/85mmHg未満)が推奨されています。

女性患者の血圧を測る医師

循環器疾患の病態と治療「高血圧」はこちら

●糖尿病

糖尿病は脳血管障害を含む心血管病の危険因子であり、食事療法や運動療法に加えて薬物治療を行うことが脳血管障害の予防のために推奨されています。薬物治療としては、メトホルミン、GLP-1受容体作動薬、SGLT-2阻害薬などが推奨されています。加えて、血圧や脂質異常症の厳格な管理や禁煙などによって心血管病の発症や心血管病による死亡が抑えられることがわかっています。

循環器疾患の病態と治療「糖尿病」はこちら

●脂質異常症

脂質異常症も脳血管障害の危険因子です。とくに高LDLコレステロール血症は、アテローム血栓性脳梗塞の重要な危険因子であり、食事療法や運動療法に加えてスタチンなどの薬剤によってLDLコレステロールをできるだけ下げることが脳血管障害のリスクを抑えることにつながります。

循環器疾患の病態と治療「脂質異常症」はこちら

●飲酒・喫煙

脳血管障害のなかでもとくに脳出血、くも膜下出血は、飲酒量に比例してそのリスクが高くなることがわかっています。一方、脳梗塞については大量飲酒が危険因子であることが知られており、適切な飲酒量を守ることが必要です。

喫煙は脳血管障害の発症リスクとなりますが、さらに高血圧が加わることで、一段とリスクが高まります。これは喫煙本数に関係なく、1日1本であってもリスクは上昇します。ただし、5~10年の禁煙でリスクを低下させることができるとされており、禁煙教育、ニコチン置換療法、経口禁煙薬投与による禁煙治療が推奨されます。

禁煙

●心房細動

心房細動は、脳梗塞のうち心原性脳塞栓症の原因になります。心房細動は無症状の場合も多く、定期的な健康診断、動悸や脈の乱れがある場合の早期の受診を促すことが重要です。心房細動にはカテーテルアブレーションによる治療が有効です。

循環器疾患の病態と治療「不整脈」はこちら

この記事は2024年8月現在の情報となります。

<文献>

※1  厚生労働省:2022(令和4)年国民生活基礎調査の概況
https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa22/dl/14.pdf
(2024年8月23日閲覧)
日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023].協和企画,2023.
波多野武人編:まるごと図解 ケアにつながる脳の見かた.照林社,2016.
永田泉監/波多野武人・平田雅彦編:急性期の検査・治療・看護・リハビリまで オールカラーやさしくわかる脳卒中.照林社,2019.
四條克倫:診療ガイドライン最新事情シリーズ12 脳卒中ガイドライン2021(改訂2023).日大医学雑誌,82(6):325-332,2023.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/82/6/82_325/_pdf/-char/ja
(2024年8月23日閲覧)
濱元裕喜・大石亮:血栓・塞栓症の臨床-診断・治療・予防の最新動向- 総論 血栓・塞栓症のリスク因子と管理.日本臨牀,82(2)140-147,2024.
北園 孝成先生

九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学分野 教授

北園 孝成先生

1984年九州大学医学部卒業。1990年同大学大学院医学系研究科修了、米国アイオワ大学研究員、九州大学医学部第二内科助手を経て、2011年九州大学大学院医学研究院教授に就任。2019~2022年には医学研究院長を併任した。久山町研究ならびに脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病等を対象にした疾患コホート研究を牽引。福岡県循環器病対策推進協議会副会長として循環器病対策に貢献している。日本脳卒中学会理事、日本内科学会評議員、日本老年医学会代議員など。専門分野は脳卒中。

この記事は2024年8月現在の情報となります。

×
第一三共エスファ株式会社の管理外にある
ウェブサイトに移動します。

TOP