脳血管障害の再発予防
脳血管疾患の再発を防ぐためには、服薬の継続や生活習慣の改善によるリスク管理などが重要となります(表1)。日本脳卒中協会が作成した脳卒中克服十か条を患者さんや家族(介護者)を利用して、理解しやすい方法で指導を行うことが大切です。
表1 脳卒中克服十か条
1条:生活習慣:自己管理 防ぐあなたの 脳卒中
2条:学ぶ:知る学ぶ 再発防ぐ 道しるべ
3条:服薬:やめないで あなたを守る その薬
4条:かかりつけ医:迷ったら すぐに相談 かかりつけ
5条:肺炎:侮るな 肺炎あなたの 命取り
6条:リハビリテーション:リハビリの コツはコツコツ 根気よく
7条:社会参加:社会との 絆忘れず 外に出て
8条:後遺症:支えあい 克服しよう 後遺症
9条:社会福祉制度:一人じゃない 福祉制度の 活用を
10条:再発時対応:再発か? 迷わずすぐに 救急車
【出典】日本脳卒中協会:脳卒中克服十か条
薬による慢性期の治療(再発予防)
●脳梗塞の再発予防
脳梗塞に対する慢性期の治療(再発予防)では、抗血栓療法の継続が重要となります(表2)。
抗血小板薬 | DAPT(抗血小板薬2剤併用)は出血リスクが高いため、約1か月を目処に抗血小板薬の単剤療法に切り替える、またはシロスタゾールを用いた併用療法に切り替えて継続します。 |
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抗凝固薬 | 心原性脳塞栓症の原因となる非弁膜症性心房細動(NVAF)に対してはDOACが第一選択となり、次いでワルファリンが推奨されています。ワルファリンはビタミンKが関与する血液凝固因子の活性化を抑えることで血栓の形成を抑制しますが、効果の発現までに時間がかかり、頻回な採血が必要、他剤や食事との相互作用が多いなど、いくつかの注意点があります。DOACは腎機能や年齢、体重を考慮して薬の種類と用量が決められるため、薬剤師は医師の指導を患者さんが理解しているかどうかを確認しながら服薬指導を行うことが重要となります。 |
抗血栓療法を受けている患者さんは出血リスクのある処置や検査に注意が必要です。出血時の対処が容易な抜歯や白内障手術などでは可能なかぎり抗血栓薬の継続が勧められていますが、それぞれの病状によって対応も異なります。他の診療科または歯科を受診するような場合は医師や歯科医師に抗血栓療法を受けていることを伝えるように指導することが重要です。
●脳出血の再発予防
脳出血の再発を防ぐためには高血圧の管理が重要です。決められた時間に薬を服用できるような工夫をアドバイスするだけでなく、食事、運動、飲酒、禁煙などの生活面についても指導を行うことが重要です。
とくに再発予防を目的とした薬の服用は、効果が数値などに現れにくいため、自己判断による中断が起こりやすくなります。患者さん自身が服薬を継続する目的、理由を正しく理解できるように薬剤師が丁寧に指導することが行動(服薬)への意欲を高め、継続へとつながります。
リスク因子の管理
脳血管障害の再発予防は、生活習慣病対策となります。肥満の解消や食事、運動、禁煙、節酒などの日常生活の習慣の見直しをはかるとともに、高血圧や糖尿病、脂質異常症などの生活習慣病の治療を継続することが重要です。
●食事
脳血管障害の再発リスクを低下させるためには、(1)減塩(1日6g未満)、(2)適正エネルギー量の厳守、(3)栄養バランスのよい食事、(4)食物繊維や不飽和脂肪酸を積極的に摂るなど、食事内容を意識的に改善していくことが重要です。指導にあたる際には、揚げ物や加工肉、バター、菓子類(間食)、漬物や塩蔵品などを減らす、麺類は汁を残す、野菜がメインの主菜や魚を使ったメニューを増やすなど、具体的な方法をアドバイスするようにしましょう。
脳血管障害の後遺症で嚥下障害がある人に対しては、とろみをつける、固形物と汁を一緒に飲み込まないなど、誤嚥しにくい調理や食べ方の工夫などを伝えることで、患者さんや家族が取り組みやすくなります。
●運動
麻痺がない、あるいは軽度の場合には、適度な運動を習慣づけることが生活習慣病の改善や再発予防に役立ちます。運動量や強度については医師と相談のうえ実施することが重要ですが、麻痺がない患者さんの場合には、1日30分程度の有酸素運動を週2回以上行うことで肥満の解消や体力の向上につながるといわれています。
また、麻痺があって十分な運動ができない場合でもベッド上や座位で身体を動かすことが勧められます。要支援・要介護認定を受けている場合にはデイサービスでのレクリエーションなどの活用も含めて、現在の身体状況と安全に運動を行うために必要な支援を医療-介護チームで検討します。
●禁煙
喫煙は脳血管障害の重要なリスク因子となるため、禁煙が必須です。受動喫煙を回避するために、同居する家族に喫煙者がいる場合には家族にも禁煙を指導しましょう。
●飲酒
脳血管障害の再発予防のためには大量飲酒を避けることが重要です。飲酒量は1日20g(エタノール換算)程度にとどめるように指導します。
●脱水の予防
温度や湿度の上昇は脱水のリスクを高めます。入浴前や気温、湿度が高い日は意識的に水分を摂ることを指導しましょう。
生活習慣病の管理
脳血管疾患の再発予防では、高血圧、糖尿病、脂質異常症などの基礎疾患を適切に管理、コントロールしていく必要があります。
●高血圧
脳血管障害を発症した患者さんのなかでも血圧コントロールが不良の場合は再発リスクが高くなります。高血圧がある患者さんに対しては、慢性期以降の管理目標の達成を促し、継続できるようにアドバイスや支援をしていきます。
自己管理を促す方法としては、同じ時間、同じ条件で血圧をはかり、記録する習慣をつけることが勧められます。数値として示されることで患者さんが血圧対策の成果を実感しやすくなり、意欲の向上につながります。
●糖尿病
脳血管障害の再発予防では、血糖コントロールとの関連については明らかになっていませんが、糖尿病は動脈硬化を進展させる要因であり、十分な血糖管理が重要です。
●脂質異常症
非心原性脳梗塞の再発予防では、LDLコレステロール100mg未満を目標に脂質管理を行います。また、冠動脈疾患を合併している患者さんはより厳格な脂質低下療法が必要で、70mg未満を目標値とすることがあります。
●心房細動
心房細動がある患者さんの脳梗塞や一過性脳虚血発作(TIA)の再発予防は、DOACやワルファリンなどの抗凝固薬による治療継続が重要となります。
この記事は2024年8月現在の情報となります。
<文献>
・ | 日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023].協和企画,2023. |
・ | 波多野武人編:まるごと図解 ケアにつながる脳の見かた.照林社,2016. |
・ | 永田泉監/波多野武人・平田雅彦編:急性期の検査・治療・看護・リハビリまで オールカラーやさしくわかる脳卒中.照林社,2019. |
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四條克倫:診療ガイドライン最新事情シリーズ12 脳卒中ガイドライン2021(改訂2023).日大医学雑誌,82(6):325-332,2023.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/82/6/82_325/_pdf/-char/ja (2024年8月23日閲覧) |
・ | 峰松一夫:脳卒中後の管理と再発・重症化予防.日本医事新報社,2019. |
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伊藤義彰:特集/教育講演3 脳卒中の再発予防:脳卒中知慮ガイドライン2021.神経治療,39(4):435-438,2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/39/4/39_435/_pdf (2024年8月23日閲覧) |
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冨本秀和・伊井裕一郎:特集 神経疾患の新しい治療―現場で必須の知識と今後の展望― 3.脳血管障害 2)再発予防と後遺症への対応.日本内科学会雑誌,102(8):1930-1937,2013.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/naika/102/8/102_1930/_pdf (2024年8月23日閲覧) |
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山上宏:特集/シンポジウム11 脳梗塞急性期治療のパラダイムシフト-3 脳梗塞急性期から慢性期までの抗血栓療法.神経治療,39(4):510-513,2022.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsnt/39/4/39_510/_pdf (2024年8月23日閲覧) |
九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学分野 教授
北園 孝成先生
1984年九州大学医学部卒業。1990年同大学大学院医学系研究科修了、米国アイオワ大学研究員、九州大学医学部第二内科助手を経て、2011年九州大学大学院医学研究院教授に就任。2019~2022年には医学研究院長を併任した。久山町研究ならびに脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病等を対象にした疾患コホート研究を牽引。福岡県循環器病対策推進協議会副会長として循環器病対策に貢献している。日本脳卒中学会理事、日本内科学会評議員、日本老年医学会代議員など。専門分野は脳卒中。
この記事は2024年8月現在の情報となります。