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患者さんを地域で支える~循環器病対策基本法と基本計画~

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脳血管障害や心疾患などの循環器疾患が死亡ならびに介護要因の上位を占めるなかで、国では循環器疾患の予防を目的に循環器病対策を進めています。「健康寿命の延伸等を図るための脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る対策に関する基本法」(以下、循環器対策基本法)をもとに進められている「循環器病対策推進基本計画(第2期:2023年度~)」においても、薬剤師が専門性を発揮することが期待されています。

患者さんを地域で支える

循環器病対策推進基本計画と薬剤師の役割

循環器対策基本法に基づく第2期循環器病対策推進基本計画では、2040年までに3年以上の健康寿命の延伸および循環器病の年齢調整死亡率の減少を全体目標とし、1)循環器病の予防や正しい知識の普及啓発、2)保健、医療および福祉にかかるサービス提供体制の充実、3)循環器病の研究推進、の3つを個別施策の柱に掲げています。

薬剤師には他職種と連携しながら急性期から維持期まで、個別性の高い医療サービスを提供することによる再発や合併症、重症化予防、生活支援などの総合的な取り組みが期待されています。

●脳卒中相談窓口の活用

脳血管障害の患者さんに対しては、急性期病院を退院した後の支援体制の充実が課題となっており、循環器病対策推進基本計画には回復期以降の医療や福祉、介護の充実に向けた体制の整備が盛り込まれています。この計画の大きな柱が退院後の相談支援に対応する脳卒中相談窓口の設置と活用です。

脳卒中相談窓口は一次脳卒中センターコア施設に設置されており、患者さんや家族への相談対応や社会資源などの情報提供を行う窓口となっています(図1)。

図1 脳卒中相談窓口における主な相談対応

脳卒中相談窓口における主な相談対応

●薬剤師の役割

薬剤師には、多職種の医療チームの一員として、服薬管理やポリファーマシーなどの問題への取り組みが期待されています。

このほか、地域に根ざした調剤薬局では、患者さんや家族のニーズを拾い上げ、最寄りの脳卒中相談窓口を紹介するなど、相談先がわからない患者さんや家族に対する情報提供を行うことで支援のつなぎ役を果たすことが求められます。

脳卒中相談窓口を紹介する薬剤師

とくに退院後は常に医療や介護の専門職の見守りがある状況とは異なり、患者さんや家族の不安は大きくなります。近年は独居や介護施設等への入居など、生活環境が多様化しているため、生活環境を踏まえて多職種で検討し、支援を継続していく必要があります(表1)。

表1 維持期(生活期)における主な薬剤師の役割

  • 服薬アドヒアランスが低下する要因を探り、対策を検討する
  • 処方内容の見直しに関する提案
  • 地域ケア会議などで他職種から情報を収集する
  • 服薬管理状況などについて他職種に情報を提供する など

自宅生活を支える制度やサービス

社会生活を送る助けとなるのが介護・福祉サービスです。脳血管障害の場合、介護保険に加入している40歳以上であれば要介護認定を受けることで介護保険が利用できます(図2)。また39歳以下の場合には精神障害者福祉手帳や身体障害者手帳を申請することで、福祉サービスを受けることができます。精神障害者福祉手帳は、高次脳機能障害によって日常生活や社会生活に支障をきたす場合で診断基準を満たすならば申請が可能です。障害者手帳の対象者や内容は自治体によって異なりますが、脳卒中相談窓口では、介護保険や障害手帳などの申請補助も行っています。

図2 介護保険制度利用の流れ

介護保険制度利用の流れ

「介護保険制度の概要」令和3年5月・厚生労働省老健局,p.8 https://www.mhlw.go.jp/content/000801559.pdf より引用

●介護保険の利用

脳血管障害で要支援・要介護者認定を受けると、居宅系サービス、施設サービスが利用できます。
医療機関だけでなく地域の介護サービス事業所をはじめ、地域でどのようなサービスが利用できるのか、どこに相談に行けば良いのかを把握しておくとよいでしょう。患者さんや家族は困っていることがあっても、情報の入手先や相談窓口がどこにあるのか、誰に相談すればよいのかもわからないことが少なくありません。「いま何かお困りのことはありますか?」など、相談しやすい雰囲気をつくることも大切です。

●在宅復帰に向けた環境整備

要支援・要介護認定を受けている患者さんの場合、自宅に戻る際の住宅改修や福祉用具サービスなどの住環境整備を利用することができます。脳血管障害で後遺症がある患者さんの場合、維持期(生活期)が生涯にわたって続くため、退院前から患者さんが自宅に戻った後の生活環境を整えておく必要があります。

●在宅における服薬管理

退院後、自宅または施設利用をしている脳血管障害治療後の患者さんで介護認定を受けている場合、服薬管理は介護保険による居宅療養管理指導によって行われます。在宅療養中の患者さんに対する服薬指導では、患者さんの生活をみることで個別性の高い指導や工夫を示すことができる点がメリットです。2024年の介護報酬改定で、計画的に実施する訪問管理指導の前に患者さんの療養の場(自宅など)を訪問して多職種と連携する在宅移行初期管理料が新設されるなど、日ごろから地域での多職種連携、薬剤師としての専門性を発揮することが求められています(表2)。

  • 薬が大量に余っている、または複数回分の薬を一度に服用している
  • 薬の服用を拒絶している
  • 使いきらないうちに新たな薬が処方されている
  • 口臭や口腔内出血がある
  • 体重の増減が推測される見た目の変化がある
  • 食事量や食事回数に変化がある
  • 下痢や便秘が続いている
  • 皮膚が乾燥していたり湿疹等がある
  • リハビリテーションの提供が必要と思われる状態にもかかわらず提供されていない

【出典】厚生労働省:社保審-介護給付費分科会 第182回資料 居宅療養管理指導
https://www.mhlw.go.jp/content/12300000/000660333.pdf

この記事は2024年8月現在の情報となります。

<文献>

日本脳卒中学会:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023].協和企画,2023.
日本脳卒中学会:脳卒中相談窓口マニュアル Version3.0.
https://www.jsts.gr.jp/img/consultation_manual_ver3.0.pdf
(2024年8月23日閲覧)
波多野武人編:まるごと図解 ケアにつながる脳の見かた.照林社,2016.
永田泉監/波多野武人・平田雅彦編:急性期の検査・治療・看護・リハビリまで オールカラーやさしくわかる脳卒中.照林社,2019.
四條克倫:診療ガイドライン最新事情シリーズ12 脳卒中ガイドライン2021(改訂2023).日大医学雑誌,82(6):325-332,2023.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/82/6/82_325/_pdf/-char/ja
(2024年8月23日閲覧)
厚生労働省:令和6年度診療報酬改定の概要【調剤】.
https://www.mhlw.go.jp/content/12400000/001238903.pdf
(2024年8月23日閲覧)
北園 孝成先生

九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学分野 教授

北園 孝成先生

1984年九州大学医学部卒業。1990年同大学大学院医学系研究科修了、米国アイオワ大学研究員、九州大学医学部第二内科助手を経て、2011年九州大学大学院医学研究院教授に就任。2019~2022年には医学研究院長を併任した。久山町研究ならびに脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病等を対象にした疾患コホート研究を牽引。福岡県循環器病対策推進協議会副会長として循環器病対策に貢献している。日本脳卒中学会理事、日本内科学会評議員、日本老年医学会代議員など。専門分野は脳卒中。

この記事は2024年8月現在の情報となります。

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