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脳血管障害の服薬管理・指導

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服薬アドヒアランスが低下することは、脳血管障害のリスク因子となる疾患のコントロール不良を招き、薬物療法の効果を減弱させます。しかし、脳血管障害の患者さんでは退院後の服薬アドヒアランスが急激に低下することがわかっており、薬剤師による管理が重要となります。

訪問して患者さんに薬の説明をする薬剤師

服薬アドヒアランス低下と再発リスク

脳血管障害の再発予防においては、薬剤師による継続的な服薬管理・支援が重要となります。とくに抗血栓薬の服薬アドヒアランス低下は、脳血管障害の発症率を上昇させ、重症化の要因となります。

服薬アドヒアランス向上のためには、服薬の実行、継続を阻む要因を把握し、その解消に向けてアプローチする必要があります。脳血管障害における服薬アドヒアランス低下には次のような要因があげられます(表1)。

表1 服薬アドヒアランス低下の主な要因

  • 薬の服用を忘れる
  • 病識、薬識の不足
  • 服薬指示に関する誤った理解
  • 副作用や依存に対する恐れ
  • 薬の味が苦手、飲みにくい剤形
  • 内服の妨げとなる障害がある
  • 費用負担への不安
  • 生活環境の悪化
  • 医療従事者に対する信頼の低さ など

脳血管障害患者さんの服薬アドヒアランス向上は、職種間で情報を共有しながら進めることが重要となります。相互の専門性を活かして患者さんの状態に適した支援を行います。

患者さんに服薬指導をする薬剤師

なかでも薬剤師が主体的にかかわる必要があるのが薬の服用忘れへの対応、患者さんの薬識を高める服薬指導、剤型の見直し、一包化などです。とくに患者さんがいま困っている症状を軽減する薬(睡眠薬など)に比べて、再発を防ぐための薬は患者さん自身が服用する目的や効果がわかりにくいため、自己判断による中断の可能性が高く、その目的や意義を丁寧に伝えていく必要があります。

また、薬の取り出しにくさ、飲みにくさが薬の継続を妨げることもあります。医師、看護師、リハビリテーション療法士などとともに内服の妨げとなる障害などを評価し、服薬が継続しやすい剤型への変更を医師に提案します。また、取り出しにくい場合の介助の必要性や自助具(レターオープナーなどを転用)の利用が有効かどうかなどを検討します。

障害による服薬への影響と評価

急性期または回復期で入院管理をしている場合、看護師や薬剤師の見守りのもとで服薬することが可能ですが、生活期に移行すると患者さんは自律的に服薬を行うことになります。入院中は医療従事者が行っていた服薬の一連の動作のなかで患者さん本人ができること、道具の利用や介助が必要なこと、どこまでを介助者(家族など)が行えばよいのかを評価する必要があります。

●認知機能障害

在宅で服薬を継続するために必要な認知機能について、MMSE(mini-mental state examination) などのスクリーニングテストによる評価を行います。全体的な認知機能だけでなく、失点があった項目を把握し、必要な服薬支援につなげていくことが重要となります。

●身体機能の障害

前もって薬が仕分けされていれば自分で服用することができる患者さんには一包化などの対応が有効です。ただし、自助具なしで開封、服薬ができる、自助具を使えば開封ができる、介護者などに開封してもらえば服薬ができるなど、薬を正しく服薬するまでの動作を確認し、必要な援助の依頼、指導を行います。

患者さんの服薬の様子を見守る薬剤師

●摂食嚥下障害の評価

嚥下障害があると服薬がしにくくなったり、口腔内残薬が起こりやすくなったりします。実際に薬を薬剤師の前で服用してもらい、飲み込めているか、口のなかに残っていないかなどを適切に評価する、あるいは家族などの介護者に確認してもらい、情報を得るなどの対応が求められます。貼付剤、坐薬などの内服以外の方法、粉砕や簡易懸濁法などによる服用、とろみ剤の使用、服薬時の姿勢の見直しなどを行い、確実で安全な服薬方法を提案します。

粉薬を飲んでむせる女性

また、内服している薬の影響で嚥下機能が低下することもあります。薬の影響が考えられる場合には、薬の減量や中止を含めて医師に提案します。

薬剤師による服薬指導のポイント

患者さんは、薬の副作用や長期的な薬の服用、種類の多さなどに不安を感じることが多く、それが服薬アドヒアランスの低下につながります。とくに抗血小板薬や抗凝固薬などのハイリスク薬の副作用については、患者さんだけでなく介護者(家族など)にも十分な説明を行うことが重要です。服薬時に薬をこぼしたり、服薬を忘れたりすることがあるため、家族や介護者による見守り(服薬確認)が可能な時間帯に服薬してもらうようにするなど、相談しながら決めていきます。

●麻痺がある患者さんの歩行介助

片麻痺のある患者さんを椅子に誘導する場合は、介助する人が麻痺側に立ちます。転倒リスクが高い患者さんの場合には麻痺側の上肢を支えるようにします。

歩行介助をする理学療法士

●高次脳機能障害がある人への服薬指導

脳血管障害後、高次脳機能障害がある患者さんに対しては、指導の内容がどの程度理解できているのかが確認できないところに難しさがあります。事前に医師や看護師から情報を提供してもらい、患者さんができること、できないことを確認しながら指導を行うことが重要です(表2)。

表2 失語症がある人のコミュニケーション手段の例

1. 話すこと(言葉で表現する)に障害がある場合

  • 閉じた質問(「はい」「いいえ」で答えられる形式の質問)をする
  • 1つの質問を短く、ゆっくりと簡潔に話す
  • 患者さんからの返答を待つ、傾聴の姿勢を示す
  • ジェスチャーやイラストなどを使う

2. 聞き取りに障害がある場合

  • イラストなどを使う
  • 患者さんが聞き取れているかどうかを確認しながら話す

3. 書くことに障害がある場合

  • 簡単な文字や数字を書き示す
  • 一緒に書く

4. 読むことに障害がある場合

  • 文字を指し示しながら読む
  • 誤りがあった場合には読み直す
カレンダーを使って患者さんと話す薬剤師

脳血管障害の患者さんは後遺症の影響でADLが低下して発症前と比べて1つの作業に時間がかかったり、リハビリテーションを受けていたりすると疲労しやすいため、飲み忘れしやすくなります。薬を飲み忘れてもすぐに体調が悪化するようなことはないため、飲み忘れを機にそのまま服薬を中断してしまうことがあるため、くり返し指導を行いながら患者さんの習慣化につなげることが重要です。

この記事は2024年8月現在の情報となります。

<文献>

日本脳卒中学会脳卒中ガイドライン委員会:脳卒中治療ガイドライン2021[改訂2023].協和企画,2023.
波多野武人編:まるごと図解 ケアにつながる脳の見かた.照林社,2016.
永田泉監/波多野武人・平田雅彦編:急性期の検査・治療・看護・リハビリまで オールカラーやさしくわかる脳卒中.照林社,2019.
四條克倫:診療ガイドライン最新事情シリーズ12 脳卒中ガイドライン2021(改訂2023).日大医学雑誌,82(6):325-332,2023.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/numa/82/6/82_325/_pdf/-char/ja
(2024年8月23日閲覧)
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https://www.pmda.go.jp/files/000229948.pdf
(2024年8月23日閲覧)
厚生労働省:高齢者の医薬品適正使用の指針(総論編)
https://www.mhlw.go.jp/content/11121000/kourei-tekisei_web.pdf
(2024年8月23日閲覧)
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日本脳卒中学会:脳卒中相談窓口マニュアル Version3.0.
https://www.jsts.gr.jp/img/consultation_manual_ver3.0.pdf
(2024年8月23日閲覧)
金原寛子、塚谷才明ほか:短報 嚥下サポートチームにおける薬剤の役割.日本摂食嚥下リハビリテーション学会誌,24(2)184-193,2020.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsdr/24/2/24_184/_pdf/-char/ja
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https://www.ncgg.go.jp/hospital/kenshu/organization/documents/20240308_zaitakuhoumonyakuzai_guide.pdf
(2024年8月23日閲覧)
北園 孝成先生

九州大学大学院医学研究院 病態機能内科学分野 教授

北園 孝成先生

1984年九州大学医学部卒業。1990年同大学大学院医学系研究科修了、米国アイオワ大学研究員、九州大学医学部第二内科助手を経て、2011年九州大学大学院医学研究院教授に就任。2019~2022年には医学研究院長を併任した。久山町研究ならびに脳卒中、糖尿病、慢性腎臓病等を対象にした疾患コホート研究を牽引。福岡県循環器病対策推進協議会副会長として循環器病対策に貢献している。日本脳卒中学会理事、日本内科学会評議員、日本老年医学会代議員など。専門分野は脳卒中。

この記事は2024年8月現在の情報となります。

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