PDF

糖尿病の原因

PDF

糖尿病は、インスリンの作用が不足することによって慢性的な高血糖を引き起こす代謝症候群です。高血糖の状態が続くことで血管が損傷し、網膜症や腎症、神経障害などの細小血管障害や動脈硬化性疾患など、さまざまな疾患を合併します。

食事により血糖値が上がる男性

糖尿病とは

糖尿病は何らかの原因で糖の代謝に異常が生じ、血糖値が高い状態が続く病態をいいます。これには、膵臓から分泌されるインスリンのはたらきが大きく影響しています。インスリンは食後の血糖値の上昇に合わせて膵臓のランゲルハンス島のβ細胞から分泌されることで、標的となる臓器(骨格筋、脂肪細胞、肝臓)での糖の貯蓄をうながし、血糖値を下げるはたらきがあります。標的となる臓器に取り込まれた糖はエネルギーとして使われます(図1)。このとき余ったブドウ糖はグリコーゲンに変換されます。

図1 糖の代謝とインスリンのはたらき

糖の代謝とインスリンのはたらき

糖尿病は、インスリンの作用が弱まった状態が続くことで発症します。インスリンの作用が弱まる原因として、膵臓の機能低下によってインスリンの分泌が低下する病態(インスリン分泌低下)と、膵臓からのインスリン分泌が正常であってもインスリン感受性の低下によって標的となる臓器で糖が取り込まれない病態(インスリン抵抗性)の2つがあります。

糖尿病の分類

糖尿病や糖の代謝に異常が生じる原因は、大きく4つに分類されます(表1)。

表1 糖尿病の原因
分類 特徴
1型糖尿病 膵臓のランゲルハンス島に炎症が起こってβ細胞が破壊され、インスリンを分泌できなくなることが原因。遺伝的な要因やウイルス感染などを機に生じる自己免疫性の関与が指摘されている。急激に症状が進み、インスリン欠乏状態に至ることが多い
2型糖尿病 インスリンの分泌低下やインスリン感受性の低下、またはその両方によって血糖値が高い状態が続き、発症する。生活習慣や外的要因の関与とともに遺伝的要因が大きい。自覚症状がないまま進行することが多い
その他の糖尿病 遺伝子の異常やほかの疾患、薬剤の影響で発症する。疾患では急性膵炎や慢性膵炎などの膵外分泌疾患、先端巨大症や甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患、肝疾患によるものが知られている。薬剤では副腎皮質ステロイド薬、利尿薬、精神作用薬、免疫抑制薬などがある
妊娠糖尿病 肥満や高齢妊娠、家族性、過去の妊娠時の高血糖などが原因で妊娠中に確認された糖代謝異常。将来的な糖尿病発症リスクが高い状態にある

●薬剤性の高血糖に対する対応

薬によって高血糖が生じた場合で薬の中止が困難な場合、医師との連携のもと血糖管理を行う必要があります。次のような場合は高血糖のリスクがあるため、とくに服薬指導では注意が必要です(表2)。

表2 患者側のリスク因子

  • 過去に血糖値が高値であると指摘されたことがある
  • 肥満傾向にある
  • 高血圧を指摘、もしくは降圧薬を内服している
  • 糖尿病の家族歴がある
  • 高齢者
  • ADL低下や認知症
  • 外食が多い、野菜の摂取量が少ない
  • 運動量が少ない
  • 妊娠糖尿病の既往

このほか、薬の投与量が多いことで高血糖になることもあります。患者さんへの服薬指導では口渇、多飲、多尿、体重減少といった症状が出ることがあることを伝え、気になる症状があればすぐに医療従事者に伝えるように指導します。

2型糖尿病の原因

日本国内における糖尿病有病者(糖尿病が強く疑われる者)は、男性で19.7%、女性で10.8%にのぼり、この10年で増減はみられていません※1 。また、約90%が2型糖尿病といわれています※2

日本人の場合、遺伝的にインスリン分泌が弱い人が多いといわれており、軽度の肥満などがあるだけでもインスリン作用不足になりやすく、糖尿病の発症リスクが高まります。2型糖尿病は、このような遺伝的な素地に生活習慣や環境因子が重なることで発症しやすくなります(図2)。

図2 2型糖尿病の原因

2型糖尿病の原因

●高齢者の糖尿病

耐糖能異常や糖尿病は、加齢とともに増加することがわかっています。加齢によってインスリン分泌が低下したり、細胞の老化によってβ細胞の機能が衰えたり、糖を吸収する骨格筋の筋量低下、内臓脂肪の増加といった体組成の変化、身体活動量の減少が起こります。β細胞の機能は、2型糖尿病と診断された時点で大幅に低下しており、高血糖の状態が続くことでさらに衰えていきます。

骨格筋の筋量低下は、身体活動量の減少につながり、それがインスリン抵抗性の増大の原因となるといった悪循環を引き起こします。糖尿病では高齢者の患者割合が高まっている疾患のひとつであり、血糖値の管理だけでなく全身状態も確認しながら指導を行うことが重要となります。

<文献>

※1  厚生労働省:令和元年国民健康・栄養調査結果の概要.
https://www.mhlw.go.jp/content/10900000/000687163.pdf
(2023年12月20日閲覧)
※2  日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療の手びき.南江堂 2020
日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,2022.
日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,2019.
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
(2023年12月20日閲覧)
日本老年医学会・日本糖尿病学会:高齢者糖尿病診療ガイドライン2023.南江堂,2023.
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/diabetes_treatment_guideline.html
(2023年12月20日閲覧)
日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会:糖尿病標準診療マニュアル2023 一般診療所・クリニック向け.
https://human-data.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/03/DMmanual_2023.pdf
(2023年12月20日閲覧)
厚生労働省:e-ヘルスネット 健康用語辞典 身体活動・運動 インスリン抵抗性
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/exercise/ys-012.html
(2023年12月20日閲覧)
日本糖尿病学会:糖尿病ってどんな病気?
http://www.jds.or.jp/modules/citizen/index.php?content_id=2
(2023年12月20日閲覧)
厚生労働省:重症副作用疾患別対応マニュアル高血糖.
https://www.pmda.go.jp/files/000265666.pdf
(2023年12月20日閲覧)

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授

綿田 裕孝先生

1990年大阪大学医学部卒業。桜橋渡辺病院循環器内科医員を経て大阪大学大学院修了後、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学。2001年順天堂大学内科学・代謝内分泌学講師、2006年同大学助教授、2007年同大学先任准教授を経て、2010年に同大学教授に就任(現職)。2020年より日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員を務める。日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本内科学会認定医・専門医・指導医、日本医師会認定産業医。日本糖尿病学会常務理事、日本糖尿病・肥満動物学会常務理事、日本体質医学会理事、日本内科学会評議員、日本内分泌学会評議員、日本臨床分子医学会評議員、日本肥満治療学会評議員など。専門分野は糖尿病・内分泌学。

×
第一三共エスファ株式会社の管理外にある
ウェブサイトに移動します。

TOP