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糖尿病患者さんの服薬管理

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糖尿病の薬物治療は、新しい経口血糖降下薬などの登場により、患者さんの病態に合わせた個別性の高い処方が行われるようになっています。調剤後のフォローアップを行う役割を担う薬剤師は、重複投与や相互作用などの確認だけでなく、服薬アドヒアランスが低下する要因への対応が求められます。服薬アドヒアランスの低下は、治療の効果に影響し、適切な用量・用法での薬物治療の継続を阻む要因になることが考えられます。

決まった時間に薬を飲む女性

服薬の阻害要因となるもの

糖尿病の治療薬は、服薬遵守率が67.5%とされており※1 、他の疾患と比べても低いといわれています。服薬アドヒアランスの低下は、HbA1cの悪化につながり、血糖コントロール不良の要因です。糖尿病をはじめとする慢性疾患では、治療継続を阻む要因が複数にわたることがあります。

服薬アドヒアランスが低下する要因はひとつではなく、社会的・経済的要因、疾患の受容、副作用への不安、薬の服用のしにくさ(多剤である、剤型が合わない、生活リズムに合わないなど)などが考えられます。

●社会的・経済的要因

血糖降下薬は長期的な服用が必要であり、なかには経済的な理由から通院を中断してしまう患者さんもいます。服用している薬のなかで後発医薬品への切り替えが可能なものを提案するなど、経済的な配慮をすることで治療継続につながることもあります。

●疾患の受容

患者さんにとって糖尿病治療は終わりが見えないことでつらく感じることがあります。また、糖尿病になったことで周囲の人に否定的な態度をとられることでスティグマが生じることがあります。疾患を受け入れられない気持ちや周囲の人によるスティグマが治療中断につながることがあります。患者さんが疾患をどのように受け止めているのか、どのようにしていきたいのかを引き出す傾聴の姿勢が重要となります。また、糖尿病療養支援は、患者さん自身が自律的に行動を変えたり、患者さんが自身で決めたことを実践しやすくしたりするためのサポートであることが重要です。

●副作用への不安

血糖降下薬は低血糖の副作用が起こりやすく、患者さんのなかには低血糖を経験したことで治療への不安が強くなり、服用を中断してしまう人もいます。低血糖が起こる原因や服薬の注意点などを患者さんに丁寧に説明し、低血糖のリスクを抑えるためにも決められた時間、用量、用法を守ることが重要であることの理解をうながします。

●薬の服用のしにくさ

糖尿病患者さんの場合、血糖降下薬だけでなく、ほかの生活習慣病の薬を併用しているケースも多く、薬の種類、数が多いことが服薬忘れにつながることがあります。薬の数が多い場合には配合薬への切り替えが有効な場合があります(表1)。

表1 血糖降下薬の配合薬
薬剤の組み合わせ 1日の用量(mg)
  • ピオグリタゾン塩酸塩(チアゾリジン系薬)
  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬)
  • 15/500(LD)
  • 30/500(HD)
  • ピオグリタゾン塩酸塩(チアゾリジン系薬)
  • グリメピリド(SU薬)
  • 15/1(LD)
  • 30/3(HD)
  • アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬)
  • ピオグリタゾン塩酸塩(チアゾリジン系薬)
  • 25/15(LD)
  • 25/30(HD)
  • ミチグリニドカルシウム水和物(速効型インスリン分泌促進薬)
  • ボグリボース(α-グルコシダーゼ阻害薬)
  • 30/0.6
  • ビルダグリプチン(DPP-4阻害薬)
  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬)
  • 100/500(LD)
  • 100/1000(HD)
  • アログリプチン安息香酸塩(DPP-4阻害薬)
  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬)
  • 25/500
  • アナグリプチン(DPP-4阻害薬)
  • メトホルミン塩酸塩(ビグアナイド薬)
  • 200/500(LD)
  • 200/1000(HD)
  • テネリグリプチン臭化水素酸塩水和物(DPP-4阻害薬)
  • カナグリフロジン水和物(SGLT2阻害薬)
  • 20/100
  • シタグリプチン酸塩水和物(DPP-4阻害薬)
  • イプラグリフロジン L-プロリン(SGLT2阻害薬)
  • 50/50
  • エンパグリフロジン(SGLT2阻害薬)
  • リナグリプチン(DPP-4阻害薬)
  • 10/5(AP)
  • 25/5(BP)

HD:高用量 LD:低用量

患者さんからの聞き取りを行い、服薬忘れが多い患者さんで配合薬への切り替えが可能と考えられるケースでは、医師に患者さんの状況を説明し、処方変更の提案をするなどの対応が服薬アドヒアランス向上に寄与します。

●薬剤を整理する

2型糖尿病患者さんの約半数が5剤以上のポリファーマシーにあるといわれています※2。ポリファーマシーは服薬アドヒアランスの低下につながりますが、とくに高齢者の場合は併存疾患が多く、複数の医療機関、診療科を受診することによるポリファーマシーが多くなります。かかりつけ薬剤師を持つことで、新たに別の診療科を受診した場合でも薬の重複や相互作用などの確認ができ、医師への処方変更の提案ができることなど、薬剤師の活用が患者さんにとってメリットであることを周知していくことも重要です。

残薬対策

薬剤師が残薬の確認を行うことは、残った薬の日数を調整することが本来の目的ではありません。そこから残薬の要因となる情報を引き出して発生要因そのものの解消に向けてアプローチすることが重要です。残薬を誤って服用した場合、重症低血糖のリスクがあること、重症高血糖を起こすことは認知機能の低下にもつながります。薬剤師は、薬物療法の安全かつ継続的な実施を支援する役割があります。

●生活のなかに服薬を組み入れる

患者さんにとって糖尿病治療は、自身の生活のなかに組み込まれることとなった新たなものであり、これまでの人生で身につけてきた習慣と大きく異なるものは組み込まれにくいことがあります。たとえば、朝食を摂る習慣がない患者さんに朝食後に服用する薬が処方された場合、「朝食を摂らないから薬を飲むタイミングを逃してしまう」といったことが考えられます。こうした場合、薬を飲むことの重要性だけを伝えても、行動の変容にはつながりません。糖尿病の治療では、3食栄養バランスのよい食事を摂ることが重要であることを正しく理解してもらったうえで、朝食後に薬を飲む習慣をつけられるようにうながしていくことが重要です。

患者さんのタイミングをこれまで重ねてきた生活の1つの習慣に組み込むには、どの方法がよいのかを患者さんとともに考える、そのなかで用量・用法の変更を提案していくことが残薬を減らし、服薬アドヒアランスの向上につながります。

●残薬を確認する理由を伝える

患者さんのなかには、「飲み忘れがあって薬が余っている」ということを医師や薬剤師に伝えることで、「怒られるのではないか」と隠してしまう人もいます。残薬があることの原因を患者さん側に求めるような伝え方はせず、薬の変更や一包化などの対応によって服薬を支援できることを説明するようにします。

薬剤師に相談する男性

●服用のタイミングの指導

SU薬のように服用タイミングがずれてしまうことで低血糖のリスクとなる薬剤があるため、残薬が多く、その原因が服用タイミングのずれであった場合には、忘れたことに気づいたのが空腹時か食直後かなど、そのタイミングに応じて指導する必要があります。ただし、服用タイミングのずれが頻繁に起こる患者さんの場合にはほかの薬剤と一緒に服用できるように医師に提案するなど、もう一歩踏み込んだ対策が必要となります。

●携帯忘れへの対応

薬剤を外出先に携帯し忘れてしまうことが多い患者さんに対しては、ピルケースに数回分の薬を入れておき、持参したときは持参した薬を忘れたときだけピルケースから飲む方法や外出前に必ず目に留まる場所に服薬カレンダーを設置して一包化した薬を日付ごとに入れておく方法などが考えられます。施設に通っている人の場合は、介護者(家族など)が施設に行く日に服用する薬をあらかじめ介護職員に渡すなどの方法もあります。

●認知機能の低下への対応

服薬をしたかどうかを忘れてしまう患者さんの場合には、認知機能が低下している可能性があります。また、食事をしたかどうかがわからない状態でSU薬などを服用すると低血糖のリスクとなります。介護者(家族など)がいる場合には食事をともに摂って服薬を見守る、施設などの多くの介護職員の見守りがある環境で服薬できるような処方に変更するなどの対策があります。患者さんの生活や見守りの環境に合わせて調整すること、その提案をすることで認知機能が低下した人の服薬アドヒアランスの低下を防ぐことができます。

自己注射の説明と補助具使用の指導

インスリンの自己注射は、注射器の種類によって操作、利便性は異なります。教育入院で手技を学びますが、その後継続していくなかで自己流になってしまったり、加齢に伴うIADL(手段的日常生活動作)の低下、認知機能の低下などにより、正しく注射ができなくなっていることがあります。

患者さんにとっては毎日のことでこれまで治療を中断せずにきたことへの自負や、慣れていることを医療従事者の前で改めてやって見せることに抵抗を示すことがあります。手技のポイントを伝えてそれを理解しているかどうかを確認したり、最近やりにくさを感じることはないかなどを会話のなかから引き出したりする工夫が必要です。

また、補助具を使用している患者さんの場合、継続して使用できているかどうかを患者さんだけでなく、つき添いの家族に確認するなどしてフォローアップをはかります。

<文献>

※1  M. Robin DiMatteo:Variations in Patients' Adherence to Medical Recommendations: A Quantitative Review of 50 Years of
Research.42(3):200-209,2004.
※2  Remelli F,Ceresini MG, Trevisan C,et al: Prevalence and impact of polypharmacy in older patients with type 2 diabetes.
Aging Clin Exp Res 34: 1969-1983, 2022.
日本糖尿病学会編・著:糖尿病治療の手びき.南江堂 2020.
日本糖尿病学会:糖尿病治療ガイド2022-2023.文光堂,2022.
日本糖尿病学会:糖尿病診療ガイドライン2019.南江堂,2019.
http://www.jds.or.jp/modules/publication/index.php?content_id=4
(2023年12月15日閲覧)
日本老年医学会・日本糖尿病学会:高齢者糖尿病診療ガイドライン2023.南江堂,2023.
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/diabetes_treatment_guideline.html
(2023年12月15日閲覧)
日本糖尿病・生活習慣病ヒューマンデータ学会:糖尿病標準診療マニュアル2023 一般診療所・クリニック向け.
https://human-data.or.jp/wp/wp-content/uploads/2023/03/DMmanual_2023.pdf
(2023年12月15日閲覧)
綿田裕孝:糖尿病の療養指導Q&A「糖尿病治療ガイド2022‐2023」の改訂のポイントについて教えてください.糖尿病プラクティス,39(6):686‐688,2022.
佐竹正子:特集 薬の特徴から投薬後フォローまでわかる!糖尿病の薬学的管理 まずはここから!糖尿病の薬学的管理のキホン.調剤と情報,じほう,26(16):8-14,2020.
朝倉俊成:特集 薬の特徴から投薬後フォローまでわかる!糖尿病の薬学的管理 インスリン自己注射療法の管理上のポイント.調剤と情報,じほう,26(16):16-21,2020.
篠原久仁子:1糖尿病薬物療法と服薬アドヒアランスについて知る! 服薬アドヒアランスって何?糖尿病患者における実態は?.糖尿病ケア,メディカ出版,18(10):6-9,2021.
篠原久仁子:1糖尿病薬物療法と服薬アドヒアランスについて知る!服薬アドヒアランスに関連する要因と評価方法.糖尿病ケア,メディカ出版,18(10):10-14,2021.
森貴幸:1糖尿病薬物療法と服薬アドヒアランスについて知る!服薬アドヒアランスの低下は糖尿病治療にどう影響する?.糖尿病ケア,メディカ出版,18(10):16-19,2021.
森貴幸:1糖尿病薬物療法と服薬アドヒアランスについて知る!服薬アドヒアランス向上のために医療者に何ができる?.糖尿病ケア,メディカ出版,18(10):20-22,2021.
武藤達也:特集 治療継続のためのプロブレムがみえる!みつかる!糖尿病 なぜ継続できない!?糖尿病治療のリアル―薬剤師にできる継続サポートは?―.薬局,南山堂,73(12):13-16,2022.

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授

綿田 裕孝先生

1990年大阪大学医学部卒業。桜橋渡辺病院循環器内科医員を経て大阪大学大学院修了後、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学。2001年順天堂大学内科学・代謝内分泌学講師、2006年同大学助教授、2007年同大学先任准教授を経て、2010年に同大学教授に就任(現職)。2020年より日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員を務める。日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本内科学会認定医・専門医・指導医、日本医師会認定産業医。日本糖尿病学会常務理事、日本糖尿病・肥満動物学会常務理事、日本体質医学会理事、日本内科学会評議員、日本内分泌学会評議員、日本臨床分子医学会評議員、日本肥満治療学会評議員など。専門分野は糖尿病・内分泌学。

この記事は2024年1月現在の情報となります。

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