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脂質異常症の薬物療法

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脂質異常症は、動脈硬化性疾患の発症リスクに応じて治療が行われます。そのため、血液検査で脂質異常が確認された場合も、治療や管理目標が異なります。薬物療法は、冠動脈疾患やアテローム血栓性脳梗塞の既往がある場合の二次予防や糖尿病、慢性腎臓病などを合併している高リスクの人の一次予防などで考慮されます。リスクの低い人では薬物療法が治療のファーストステップではなく、生活習慣の改善による目標達成を目指します。

薬を飲む男性

薬物療法の適応と目標

脂質異常症に対し、生活習慣の改善(食事療法、運動療法)で目標が達成できない場合には、リスクに応じて薬物療法が検討されます。

●LDLコレステロールが高い場合

脂質異常症においてもっとも重要なのがLDLコレステロールを低下させることです。薬物療法においても、LDLコレステロールの管理目標値の達成を目指すことが基本となります。

●non-HDLコレステロールが高い場合

non-HDLコレステロール値の管理は、LDLコレステロールの次に重要とされています。スタチンによるLDLコレステロールの管理目標値達成後、non-HDLコレステロールが高い状態が続く場合にはスタチンとフィブラート系薬の併用を行うことがあります。

●トリグリセライドが高い場合

高トリグリセライド血症は、トリグリセライドが500mg/dLを超える異常値を示す場合、急性膵炎のリスクを回避する必要があります。そのほか糖尿病を合併しているケースなどでフィブラート系薬による管理が脳心血管イベントの発症予防につながるとされています。

●HDLコレステロールが低い場合

低HDLコレステロールのみの薬物治療の有用性は確立されていないものの、低HDLコレステロール血症の多くはトリグリセライド高値を伴うため、高トリグリセライド血症の治療に準じた薬物治療が行われます。

薬物療法に使われる薬の特徴

LDLコレステロールやnon-HDLコレステロールが高い場合の薬物療法の基本はスタチンで、副作用などによりスタチンが継続できない方や単独投与でコントロールが不十分な場合には、併用や他の治療薬への変更が検討されます。

●スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)

HMG-CoA還元酵素のはたらきを阻害してLDLコレステロールを低下させることで将来の冠動脈疾患や脳梗塞の発症率が低下することがわかっています。また、二次予防においても、冠動脈疾患をはじめとする心血管イベントの発生を抑える効果があります。

薬の特徴と指導のポイント

  • スタチン は長期使用が想定されるため、他剤との併用に対しては、新たに受診した診療科で処方された薬などを「おくすり手帳」で適切に管理することが重要です。患者さん自身も長期服用による“慣れ”が起こりやすいため、CYP3A4(薬物代謝酵素の一種)で代謝されるスタチンが処方されている患者さんにはグレープフルーツジュースの摂取を控えるなどの注意点も繰り返し伝えます。
  • スタチンは1年で10~30%が継続困難になるという服薬アドヒアランス低下が起こりやすい薬剤です。筋障害や肝障害などに対しても十分な説明を行い、スタチンの安全かつ継続的な服用を支援することが薬剤師の重要な役割です。
【その他の治療薬】
分類 薬の特徴と指導のポイント
小腸コレステロールトランスポーター阻害薬
  • 小腸 でNPCIL1を阻害し、食事や胆汁由来のコレステロールが血液中に移行するのを抑える
  • 消化器症状の副作用やワルファリンの作用減弱などについて指導する
レジン(陰イオン交換樹脂)
  • 腸管内で胆汁酸と結合し、胆汁酸合成を促進するため、肝臓でコレステロールが使われLDLコレステロールを低下させる
  • 肝臓におけるHMG-CoA還元酵素の活性増加によるコレステロール生合成の亢進を伴うため、スタチンとの併用が効果的である
  • 腸管から吸収されないため、小児や妊娠の可能性がある女性にも使用できる
  • 併用する薬剤の吸着が起こることがあるため、併用薬の確認、指導を行う。長期的に使用する場合には、脂溶性ビタミンや葉酸の吸収阻害に注意する
プロブコール
  • 脂溶性抗酸化物質で、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値の両方を低下させる作用がある
  • 消化器症状や肝障害、QT延長などに注意が必要
PCSK9阻害薬
  • 肝細胞にあるLDL受容体の分解に関与するPCSK9タンパクを阻害することで、肝臓へのコレステロール取り込みを増加させて強力にLDLコレステロールを低下させる作用がある
  • 副作用として皮下注射による注射部位反応がみられるほか、鼻咽頭炎や胃腸炎が報告されている
MTP阻害薬
  • リポタンパク質にトリグリセライドを受け渡しているMTPに直接結合することで作用を阻害する
  • 小腸や肝臓におけるリポタンパク質の形成が阻害されることでLDLコレステロール値が低下する
  • 適応は、ホモ接合体家族性高コレステロール血症に限定されている
  • 副作用の頻度が高く主なものに胃腸障害、肝機能検査値異常がある
  • 下痢予防のための脂肪分の少ない食事の指導、肝機能のスクリーニングおよびフォローアップなどが必要
フィブラート系薬
  • 肝臓で発現する核内受容体のペルオキシソーム増殖剤活性化レセプターα(peroxisome
    proliferator-activated receptor α)を活性化することにより、トリグリセライドを低下させる
  • レムナントリポタンパクの分解を促進する
  • HDLコレステロールを上昇させる
  • スタチンとの併用や慢性腎臓病患者さんは注意が必要
  • 内服中は定期的な腎機能の評価を行う
  • まれにミオパチー様症状や横紋筋融解症が起こることがある

LDLアフェレシス

LDLアフェレシスは、家族性高コレステロール血症のうち、若年で冠動脈疾患の発症に至った患者さんでスタチンによる効果が得られないホモ接合体の人や冠動脈疾患があり、薬剤難治性のヘテロ接合体の人に行われる治療です。

LDLアフェレシスには、単純血漿交換、二重膜濾過法、LDL吸着法があります。LDLコレステロールの低下だけでなく、血栓形成の抑制や血管内皮機能の改善などの効果が期待でき、それによって動脈硬化の進展を防ぎます。脂質異常症の患者さん全体からみると適応となる患者さんは少なく、ホモ接合体の患者さんに使用できるMTP阻害薬も登場していますが、重症の家族性コレステロール血症の患者さんは若年のうちに心筋梗塞などの脳血管疾患を発症するリスクが高いため、薬剤とLDLアフェレシスの併用などによってそのリスクを減らすことが重要です。

透析を受ける男性

<文献>

日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版.レタープレス,2023.
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.レタープレス,2022.
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_220713.pdf
(2023年11月27日閲覧)
藤原和哉:特集 いまこそ学びなおす!脂質異常症とその薬 高LDL-C血症に用いる薬剤.調剤と情報,29(4):15-21,2023.
槇野久士、斯波真理子:特集 動脈硬化性疾患・脂質異常症Update 動脈硬化性疾患・脂質異常症に対する予防・診療の実際 LDLアフェレシス.診断と治療,111(9):1243-1247,2023.
佐藤絢子・秋山英一:特集2 脂質異常症を持つ心不全患者さんと薬剤.HEART nursing,34(8):18-24,2021.
高田龍平:特集 脂質異常症治療の最前線を追え!脂質異常症の治療薬とその薬理作用.調剤と情報,25(8):16-21,2019.
木下誠:特集 脂質異常症治療の最前線を追え!スタチン・フィブラート併用療法が望ましい病態とは.調剤と情報,25(8):22-25,2019.

地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
センター長

秋下 雅弘先生

1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2013年同大学大学院医学系研究科老年病学教授。2024年4月東京都健康長寿医療センター・センター長に就任。専門は老年医学。日本老年医学会前理事長。日本老年薬学会代表理事、日本動脈硬化学会理事、日本サルコペニア・フレイル学会理事などを務める。日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』作成委員など。

この記事は2023年11月現在の情報となります。

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