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脂質異常症の食事療法

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食事療法は脂質異常症の治療の柱のひとつであり、適切なエネルギー摂取量への改善や栄養バランスのよい食事の実践、継続が重要となります。脂質異常症の治療における食事療法の効果や食事療法の基本的な考え方を理解することは服薬指導にも役立ちます。

健康的な食事をする女性

脂質異常症における食事療法の効果

脂質異常症における食事療法には、次のような効果が期待できます(表1)。

表1 脂質異常症における食事療法の効果

  • 動脈硬化性疾患の予防と治療
  • 脂質上昇の予防と治療
  • メタボリックシンドロームの予防と治療

食事療法によってエネルギー摂取量や脂質摂取量を減らすことは、体脂肪(内臓脂肪および皮下脂肪)の減少につながり、インスリン抵抗性の改善やLDLコレステロール、トリグリセライドの低下が期待できます。

食事療法の進め方

脂質異常症は患者さんの自覚症状がなく、食事指導を実践につなげることが難しい疾患のひとつです。だからこそ、患者さんに対しては脂質異常症からの動脈硬化の進展のリスク、脳心血管疾患の予防などの疾患理解が深まる指導が重要となります。

また、食事指導は患者さんの生活に沿った個別性の高さがポイントとなります。患者さんの生活状況を聞き取りながら進めていくのが食事指導の基本となります。

●独居の人に対する食事指導の注意点

独居の場合、1人前の食事をつくらずスーパーマーケット(以下、スーパー)やコンビニエンスストア(以下、コンビニ)のお惣菜を利用しているケースがあります。冷凍食品、チルド食品、スーパーやコンビニのお惣菜などの利用も含めたアドバイスが求められます。

お弁当を選ぶ男性

脂質異常症の食事療法の基本

脂質異常症との関連が深いエネルギーや栄養素には、次のようなものがあげられます(図1)。このなかで改善が期待できるものを積極的に取り入れ、悪化の原因となるものを減らすことが食事療法の基本となります(表2)。

図1 脂質異常症との関連が深い主なエネルギー・栄養素

脂質異常症との関連が深い主なエネルギー・栄養素

表2 脂質異常症における食事療法のポイント

(1)過食を抑えて適正体重を維持する
(2)肉の脂身やラード、牛脂などの動物性脂肪、乳製品の摂取を抑える
(3)魚や大豆の摂取量を増やす
(4)野菜、海藻、きのこの摂取を増やす
(5)果物やナッツ類を適度に食事に取り入れる
(6)精製された穀類を減らして未精製穀類や麦などを増やす
(7)食塩を多く含む食品(塩蔵食品など)を控える
(8)アルコールの摂取を減らす
(9)食習慣・食行動を見直し、改善する

●過食を抑えて適正体重を維持する

適正体重に合わせた適正なエネルギー量の設定と栄養バランスのとれた献立が基本となります(表3)。

表3 適正(目標)体重の算出方法

  • 18〜49歳:身長(m)2×18.5~24.9kg/m2
  • 50〜64歳:身長(m)2×20.0~24.9kg/m2
  • 65〜74歳:身長(m)2×21.5~24.9kg/m2
  • 75歳以上:身長(m)2×21.5~24.9kg/m2

エネルギーの摂取比率は脂肪20~25%、炭水化物50~60%にします。1食あたりの脂質摂取量を減らすことで、食後高脂血症の改善が期待できます。肥満がある人の場合、1か月に1kg減量などの実現可能な目標を設定し、現在の体重の3%減を目指します※1

●脂質の選び方

脂質は飽和脂肪酸をエネルギー比率7%未満に抑え、できるだけ多価不飽和脂肪酸で摂取します(図2)。

図2 脂質の種類

脂質の種類

一価不飽和脂肪酸は油脂類や肉類、菓子類など、多くの食品に含まれる脂肪酸です。一価不飽和脂肪酸を摂る場合には、オリーブ油など、オレイン酸が多く含まれる植物性の油脂から摂ることが勧められます。加工食品に多いトランス脂肪酸の摂取は控え、コレステロールは1日200mg未満に抑えます。

●炭水化物(糖質)の摂り方

炭水化物は総エネルギー量が増えない程度にとどめ、食物繊維が豊富な未精製穀類を積極的に摂ることが重要です。また、ショ糖やブドウ糖などの摂りすぎに注意します。

●食塩の摂り過ぎに注意

塩分は調味料や塩蔵食品などにも多く含まれています。1日の食塩摂取を6g未満に抑えるようにします。調味料を減塩タイプのものに変える、香辛料を活用するなどの工夫でおいしく食べられます。

●野菜や果物、海藻、きのこ、大豆食品を積極的に摂る

ビタミンやミネラル、食物繊維が豊富な野菜、果物、海藻、きのこ、大豆食品を積極的に摂ります。

●アルコールの摂取を減らす

飲酒者ではアルコールの摂取を制限することで、トリグリセライドの合成が抑制されることがわかっています。また、過度のアルコール摂取は血圧上昇、出血性脳卒中、肝障害などの有害事象を増大させるため、アルコール摂取を減らすように指導します。

表4 食事の摂り方の基本

  • 毎日、朝昼晩3食をなるべく均等に、できるだけ決まった時間に食べる
  • 栄養バランスに偏りが出ないようにする
  • 時間をかけてよく噛んで食べ、腹八分目でおさめる
  • まとめ食いやながら食べをしない
  • 薄味を心がける
  • 外食や中食はできるだけ避ける
  • 就寝2時間前までに食事を終わらせる

<文献>

※1  Muramoto A, Matsushita M, Kato A, et al. Three percent weight reduction is the minimum requirement to improve health
hazards in obese and overweight people in Japan. Obes Res Clin Pract, 8(5): e466–475. 2014.
https://doi.org/10.1016/j.orcp.2013.10.003
(2023年11月27日閲覧)
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版.レタープレス,2023.
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.レタープレス,2022.
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_220713.pdf
(2023年11月27日閲覧)
厚生労働省「日本人の食事摂取基準」策定検討会:日本人の食事摂取基準(2020年版)「日本人の食事摂取基準」策定検討会報告書.
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
(2023年11月27日閲覧)
角田真佐枝:特集 自炊にこだわりすぎない食事療法の提案を!コンビニ食を上手に用いた栄養指導2023 疾患別栄養指導のポイントとコンビニ食の組み合わせ術 ⑤脂質異常症患者の栄養指導.Nutrition Care,16(6):38-39,2023.
曽根博仁:特集 いまこそ学び直す!脂質異常症とその薬 新しい脂質管理目標と治療の概要『動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版』改訂にあたって.調剤と情報,29(4):8-14,2023.

地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
センター長

秋下 雅弘先生

1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2013年同大学大学院医学系研究科老年病学教授。2024年4月東京都健康長寿医療センター・センター長に就任。専門は老年医学。日本老年医学会前理事長。日本老年薬学会代表理事、日本動脈硬化学会理事、日本サルコペニア・フレイル学会理事などを務める。日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』作成委員など。

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