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合併症の治療と管理

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脂質異常症の合併症がある人は、脂質の管理をより厳格に行うことで動脈硬化性疾患の予防に努める必要があります。とくに脳心血管疾患の既往がある人や高血圧、糖尿病などの生活習慣病がある人はそれらの治療と平行して脂質の管理を行うことが重要です。

冠動脈疾患の既往

冠動脈疾患の既往がある人は動脈硬化性疾患を発症するリスクが高いため、LDLコレステロールの管理目標は100mg/dL未満となります。

そのなかでも急性冠症候群や家族性高コレステロール血症、糖尿病、アテローム血栓性脳梗塞の合併がある人のLDLコレステロールの管理目標は70mg/dL未満であり、より厳格な管理が必要です。

胸に強い痛みがある男性

脳血管障害の既往

脳血管障害のなかでも脂質管理が重要となるのはアテローム硬化を合併する脳梗塞(アテローム血栓性脳梗塞を含む)です。アテローム硬化を合併する脳梗塞は動脈硬化性疾患の発症リスクが高く、LDLコレステロールの管理目標は100mg/dL未満となります。

また、非心原性脳梗塞でスタチンによる治療を受けている人は、EPAを併用することがあります。そのほか出血性脳卒中は、低コレステロール血症が再発リスクとなることから、血圧管理と合わせて脂質管理の一次予防を行うことが重要です。

喫煙

喫煙は、1日1本でも冠動脈疾患や脳卒中の発症リスクとなります。禁煙補助薬による治療を含め、患者さんの禁煙を支援することがリスクの軽減につながります。心筋梗塞や脳卒中のリスクが高い人に対し、薬剤師が薬物療法を管理することで喫煙減少率が高くなり、リスクが軽減することが報告されています※1。禁煙の意思がある患者さんへの受診勧奨だけでなく、受診継続のフォロー、禁煙を継続できている患者さんに対する励ましや称賛、禁煙補助薬による副作用やアレルギーの有無を確認するなど、禁煙治療における薬剤師の役割は多様かつ重要なものとなります。

禁煙する患者を応援する薬剤師

高血圧

脂質異常症と同様に、高血圧も脳心血管疾患のリスクを高めます。降圧薬による治療を受けている患者さんに対しては服薬指導や管理を行い、患者さんが治療を継続できるように支援することが重要です。

高血圧についての解説はこちら

糖尿病

動脈硬化性疾患の予防においては、耐糖能異常の時期からの管理が重要です。運動習慣や食生活、喫煙などの状況を聞き取ります。糖尿病の治療を受けている患者さんに対しては、服薬指導と治療の継続支援による血糖管理を行います。

慢性腎臓病(CKD)

慢性腎臓病(CKD)は、脂質異常症と同様に動脈硬化性疾患のリスクを高めます。CKD合併例では、腎保護と合わせて脂質異常症や他の生活習慣病の包括的な管理が重要です。

腎機能が低下している患者さんの脂質異常症に対する薬物療法では、スタチン単独、あるいはスタチン・エゼチミブ併用が推奨されています。フィブラート系薬剤は腎排泄性のため、腎機能が低下した患者さんは禁忌となる場合があります。

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームは内臓脂肪の蓄積(ウエスト周囲径の増大)と脂質異常、高血圧、空腹時高血糖のうち2つ以上を合併したものです。メタボリックシンドロームとLDLコレステロール血症は独立したリスク因子であり、その合併は冠動脈疾患のリスクをより高めることが考えられます。メタボリックシンドロームの人は積極的に動脈硬化の検査を行い、各目標値の達成に向けた包括的な管理が重要となります。

末梢動脈疾患(PAD)

末梢動脈疾患(PAD)も動脈硬化性疾患の高リスクとなるため、脂質に関してはLDLコレステロールの管理目標値が120mg/dL未満となっています。下肢冷感や間歇性跛行(かんけつせいはこう)、潰瘍、壊死などの症状がある末梢動脈疾患に対しては、血行再建による治療や抗血小板薬の服用などを検討します。

その他

その他、動脈硬化性疾患のリスクとなるものに睡眠時無呼吸症候群、高尿酸血症などがあげられます。睡眠時無呼吸症候群のうち、閉塞性睡眠時無呼吸(OSA)は高血圧を引き起こす原因で、心血管疾患のリスク因子となります。夜間の睡眠状況は患者自身ではわからないことが多いため、日中の眠気の有無や家族からの情報をもとに医療機関の受診を勧めます。

また、高尿酸血症は、高トリグリセライド血症との合併が多く、若い世代でもみられる点も特徴です。動脈硬化性疾患のリスク因子であるとの報告もあることから、食事、飲酒、運動習慣などの生活習慣の改善について情報提供を行うことが重要です。

<文献>

※1  Tsuyuki RT, Al Hamarneh YN, Jones CA, et al: The effectiveness of pharmacist interventions on cardiovascular risk. The
multicenter randomized controlled RxEACH trial. J Am Coll Cardiol,67: 2846-2854,2016.
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版.レタープレス,2023.
日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.レタープレス,2022.
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_220713.pdf
(2023年11月27日閲覧)
日本痛風・核酸代謝学会ガイドライン改定委員会:2019年改訂高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版.診断と治療社,2019.
https://minds.jcqhc.or.jp/docs/gl_pdf/G0001086/4/Clinical_Practice_Guidelines_of_Hyperuricemia_and_Gout.pdf
(2023年11月27日閲覧)

地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
センター長

秋下 雅弘先生

1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2013年同大学大学院医学系研究科老年病学教授。2024年4月東京都健康長寿医療センター・センター長に就任。専門は老年医学。日本老年医学会前理事長。日本老年薬学会代表理事、日本動脈硬化学会理事、日本サルコペニア・フレイル学会理事などを務める。日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』作成委員など。

この記事は2023年11月現在の情報となります。

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