服薬アドヒアランスを高める薬剤師の役割
脂質異常症は、食事や薬物療法による脂質の管理だけでなく、併発する生活習慣病を含めた包括的なリスクの管理が重要となります。そのため、薬剤師は薬物治療の継続だけでなく、動脈硬化性疾患の予防につながる脂質異常の改善まで、継続的に支援する必要があります。
病識・薬識の向上
脂質異常症は、治療継続率が他の疾患と比べても低いとされています。その要因のひとつに自覚症状がないことによる病識の低さがあげられます。脂質異常症の患者さんの治療継続は、病識や治療の必要性を正しく理解してもらうことが治療継続の第一歩となります。なかでも患者さんの薬識を高めることは薬剤師の重要な役割となります。
●治療におけるアドヒアランスの向上
脂質異常症は自覚症状がなく、治療の目的も将来の動脈硬化性疾患を防ぐという点で切迫感がないことも、治療の必要性の理解が欠如しやすい要因となります。そのため、薬の種類や用量・用法などの説明をする前に、患者さんの病識や疾患の理解度を確認する必要があります。
また、脂質異常症は生活習慣の改善という患者さん主体の取り組みが治療の柱ではあるものの、医療従事者が相談に応じ、適切なアドバイスを行い、患者さんの生活や思いを理解したうえで一緒に取り組む姿勢をみせることもアドヒアランスの向上につながります(図1)。
図1 治療におけるアドヒアランスの向上
服薬アドヒアランスを高める薬剤師のかかわり
服薬の中断理由としては飲み忘れが多く、その背景には服用薬剤数や回数が多いことがあげられます(表1)。
表1 飲み忘れが多い患者さんへの対応
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服用薬剤数や回数が多い⇒一包化や合剤への切り替え
脂質異常症治療薬の合剤:スタチン+エゼチミブ
高血圧を合併している場合の合剤:アトルバスタチン+アムロジピン など -
服用のタイミングの見直し⇒生活習慣に合わせたタイミングに変更
朝は多忙で忘れやすい→夕食後への変更を医師に提案
カレンダー機能のあるピルケースやアラーム機能、アプリなどの活用
脂質異常症の薬物治療を受けている患者さんのなかには多剤投与を受けている患者さんが少なくありません。服用する薬が多いと、服薬アドヒアランスの低下につながるといわれています。また、服用するタイミングを患者さんの生活状況に合わせて見直すことで、飲み忘れが少なくなります。患者さんからの話をもとに処方内容について医師に提案するなど、薬剤師の専門性を発揮することが求められます。
●前向きな治療への取り組みを支援
治療を受けていることによる効果を実感できることは患者さんのモチベーションになります。定期検査の結果を患者さんから聞き取り、管理目標値を維持できていることを共に喜んだり、前向きな声がけをしたりするなどのかかわりも重要となります。
副作用の説明
副作用への不安に対しては、事前にどのような症状が出るのかを丁寧に説明し、副作用が出た場合には薬の見直しも可能であることなどを伝えます。
脂質異常症の治療薬では、スタチンやフィブラート系の薬剤が使われることが多く、副作用では、とくに横紋筋融解症や肝障害に注意が必要です。そのため、副作用に対するフォローアップでは、クレアチニンキナーゼ(CK)、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ(AST)、アラニンアミノトランスフェラーゼ(ALT)、γグルタミルトランスペプチダーゼ(γ-GTP)の確認が必須となります。ただし、CKは運動によって上昇することもあるため、検査時の運動状況についても確認します。
脂質異常症の治療薬についてはこちら
<文献>
・ | 日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版.レタープレス,2023. |
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日本動脈硬化学会:動脈硬化性疾患予防ガイドライン2022年版.レタープレス,2022.
https://www.j-athero.org/jp/wp-content/uploads/publications/pdf/GL2022_s/jas_gl2022_220713.pdf (2023年11月27日閲覧) |
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大野伴和・三木沙也佳:食を踏まえた患者フォロー 薬局栄養学のススメ 第5回脂質異常症.調剤と情報,じほう,28(11): 70‐77,2022. |
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植木久輝・向後麻里:特集 いまこそ学び直す! 脂質異常症とその薬 服薬指導と患者フォロー.調剤と情報,じほう,29(4): 30‐35,2023. |
地方独立行政法人
東京都健康長寿医療センター
センター長
秋下 雅弘先生
1985年東京大学医学部卒業。東京大学医学部老年病学教室助手、ハーバード大学研究員、杏林大学医学部助教授、東京大学大学院医学系研究科准教授などを経て、2013年同大学大学院医学系研究科老年病学教授。2024年4月東京都健康長寿医療センター・センター長に就任。専門は老年医学。日本老年医学会前理事長。日本老年薬学会代表理事、日本動脈硬化学会理事、日本サルコペニア・フレイル学会理事などを務める。日本動脈硬化学会『動脈硬化性疾患予防のための脂質異常症診療ガイド2023年版』作成委員など。
この記事は2023年11月現在の情報となります。