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心不全の原因と病態

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心不全患者さんの理解を深め、治療継続をアシストするためには、その原因や病態を理解したうえで患者さんへの指導や管理を行うことが重要となります。

心不全の定義

日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン『2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療』では、心不全を「なんらかの心臓機能障害、すなわち、心臓に器質的および/あるいは機能的異常が生じて心ポンプ機能の代償機転が破綻した結果、呼吸困難・倦怠感や浮腫が出現し、それに伴い運動耐容能が低下する臨床症候群」※1と定義しています。

息苦しさを感じて胸に手を当てる人

心臓が血液を十分に送り出せなくなる何らかの病態があると、心臓や身体の機能が徐々に低下して息切れやむくみなどの症状がみられるようになります。その原因となる疾患や病態、経過に違いはあっても、心機能の低下で最終的に行き着くのが“心不全”ということになります。

心不全の原因

心不全の原因となる疾患は大きく次の3つに分類されます(表1)。

表1 心不全の原因となる主な疾患

1.  心筋の異常を引き起こす病気
虚血性心疾患(心筋梗塞や狭心症)、心筋症、糖尿病など
2.  血行動態の異常を引き起こす病気
心臓弁膜症、高血圧、腎不全など
3.  不整脈
心房細動など

心筋の異常は、心臓の病気以外にも関節リウマチや妊娠、甲状腺機能亢進症などの内分泌疾患が原因となることがあります。また、抗がん薬や免疫抑制薬、抗うつ薬、抗不整脈薬などの薬剤によって心筋の異常が起こることもあります。

●心臓のポンプ機能

心臓は全身に血液を送り出すポンプ機能があり、血液(酸素)を全身に届けています。心臓のポンプ機能は、心拍数、心筋収縮力、前負荷、後負荷の4つの要素で規定されており(表2)、このいずれかが心血管疾患などによって影響を受けると、心臓から送り出される血液量が減少したり、身体がうっ血したりします。

表2 心臓のポンプ機能を規定する要素

1.  心拍数:心臓が1分間に拍動する回数
2.  心筋収縮力:心筋の収縮力
3.  前負荷:全身から戻ってきた血液によって心室にかかる負荷
4.  後負荷:心臓が収縮したときに心筋にかかる負荷(血管の抵抗)

心拍出量は、1回に心臓から送られる血液量(1回拍出量)×心拍数によって決まります。この4つの要素は互いに補完し合っており、たとえば、心筋の収縮力が低下すると、心臓から1回に送ることができる血液量が減少するため、心拍数を増やすことで心拍出量を維持しようとします。心臓から血液が送られにくくなった場合も、心拍数を増やすことで全身に血液を送っています(図1)。

図1 心臓のポンプ機能

心臓のポンプ機能

●心臓はその性質を変えていく(心臓リモデリング)

心臓には低下した機能を代償する能力が備わっています。たとえば、心筋収縮力が低下していくと、容量を増やすための代償機転が働き、心拡大が起こり、心筋が薄くなっていきます(図2)。このような心臓の性質の変化を心臓リモデリングといいます。

図2 心臓リモデリング

心臓リモデリング

心臓リモデリングは、心拍出量を維持するための機能であり、弱くなったところを別の機能で補うという点で一見便利な機能である印象を受けるかもしれません。しかし、この代償機転にも限界はあり、やがて破綻します。心機能を維持するためには心臓リモデリングを進行させないようにすることが重要なのです。

心不全の主な症状

初期の慢性心不全の場合、日常的な身体活動では自覚症状はありません。しかし、心機能の低下が進むにつれ、少し動いただけでも症状が出る、あるいは安静にしていても症状が出るようになります(図3)。

図3 心不全の主な症状
<心臓から血液を十分に送り出せないことで見られる主な症状>

心不全の主な症状

<身体に血液が溜まるうっ血による主な症状>

身体に血液が溜まるうっ血による主な症状

患者さんとのコミュニケーションのなかで、「夜寝ていると息苦しく感じる」「座っていたほうが楽」といったことが聞かれた場合には、心不全による呼吸困難(発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸)の可能性が疑われます。なかには別の疾患でよくみられる症状や、心機能の低下との関連がわかりにくい症状もあります。日常的なコミュニケーションのなかで患者さんの訴えを見逃さないことが重要です。

<文献>

※1  日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療」p.9
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
(2023年6月19日閲覧)
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン「急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)」
大八木秀和:オールカラーまるごと図解循環器疾患.照林社,2013.
泉知里:総説左室リモデリングの評価と対策.日本冠疾患学会雑誌,18:239-244,2012.
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jcoron/18/3/18_18.027/_pdf
(2023年6月19日閲覧)

兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長/副院長

佐藤 幸人先生

1987年京都大学医学部卒業。94年同大大学院卒業。2001年京都大学循環器内科助手、04年兵庫県立尼崎病院循環器内科医長、07年同科部長、23年より現職。研究テーマは心不全、バイオマーカー、チーム医療など。

この記事は2023年7月現在の情報となります。

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