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心不全の分類

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心不全は、急性心不全と慢性心不全のほか、左右どちらが障害されているのか、重症度はどの程度かなどによって、いくつか分類の方法があります。

急性心不全と慢性心不全

心不全は、「急性」と「慢性」にわかれますが、これは異なる病態と考えるのではなく、ひとつの疾患の経時的な変化でとらえます。

息苦しそうな男性

急性心不全は、心機能の異常によって急激に心臓の代償機転が破綻してしまうもので、すぐに治療を行わなければ生命に危険が及びます。治療によって症状や臓器障害が落ち着けば自宅に戻ることが可能ですが、心臓は発症する前の状態に戻ることはなく、常に不安定な状態にあります。この状態を慢性心不全といいます。

不安定な状態の心臓は、急激な悪化(急性増悪)が起こりやすくなっています。急性増悪を繰り返すなかで身体機能は低下し、慢性心不全の患者さんの約20~40%が1年以内に再入院するといわれています※1

左心不全と右心不全

心不全にはさまざまな自覚症状がありますが、心筋収縮力の低下が起きている心室が左右どちらなのかによっても症状は異なります(図1)。

図1 左心不全と右心不全

左心不全と右心不全

左心不全は、肺のうっ血によって労作時呼吸困難や発作性夜間呼吸困難、起坐呼吸などが起こりやすく、右心不全は静脈血のうっ滞により、足の浮腫が出やすくなります。一般的には左心不全を発症することで右心室の心筋収縮力にも影響が及び、両心不全に至るケースが多いとされています。

検査時のLVEF(左室駆出率)による心不全分類

心不全の治療方針を決める際に使われるのが検査時のLVEF(Left Ventricular Ejection Fraction:左室駆出率)による分類です。左室駆出率とは、心臓が1回収縮するたびに左室拡張末期容積の何パーセントの血液が全身に送り出されるかをみるものです(図2)。

図2 LVEF(左室駆出率)による心不全の分類

LVEF(左室駆出率)による心不全の分類

・HFrEF(Heart failure with reduced ejection fraction):LVEFの低下した心不全
・HFmrEF(Heart failure with mid-range ejection fraction):LVEFが軽度低下した心不全
・HFpEF (Heart failure with preserved ejection fraction):LVEFの保たれた心不全

LVEFは、心不全の経過の過程で改善したり悪化したりすることがあり、その経時的な変化が予後に関連するといわれています。LVEFが改善した心不全(HFrecEF)は比較的予後が良いとされ、LVEFが悪化した心不全(HFworEF)は予後が悪いといわれています(表1)。

表1 LVEFの経時的な変化による分類

発症時 追跡時
LVEFの保たれた心不全
(HFpEF)
LVEFが軽度低下した心不全
(HFmrEF)
LVEFの低下した心不全
(HFrEF)
LVEFの保たれた心不全
(HFpEF)
HFuncEF HFworEF HFworEF
LVEFが軽度低下した心不全
(HFmrEF)
HFrecEF HFuncEF HFworEF
LVEFの低下した心不全
(HFrEF)
HFrecEF HFrecEF HFuncEF

・HFrecEF(Heart failure with recoverd ejection fraction):LVEFが改善した心不全
・HFworEF(Heart failure with worsened ejection fraction):LVEFが悪化した心不全
・HFuncEF(Heart failure with unchanged ejection fraction):LVEFに変化がない心不全

心不全の進行度による分類(ACCF/AHAステージ分類)

心不全の進行度は、主にACCF/AHA(American College of Cardiology Foundation/American Heart Association:米国心臓病学会財団/米国心臓協会)のステージ分類※2が使われています。心不全に至る前のリスクが高い人も分類に含まれています(図3)。

図3 心不全とそのリスクの進展ステージ

心不全とそのリスクの進展ステージ

【出典】厚生労働省:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000173150.html

心不全の自覚症状をもとにした分類(NYHA心機能分類)

心不全は、呼吸困難や倦怠感などの症状が出るとともに、運動(身体活動)の能力が低下する病態であり、運動(身体活動)の能力を示すNYHA心機能分類※3が使われることがあります(図4)。

図4 NYHA心機能分類による心不全の評価

NYHA心機能分類による心不全の評価

NYHA心機能分類は、NYHA(New York Heart Association:ニューヨーク心臓協会)が作成したものです。心不全の患者さんは心機能の低下に伴って身体活動が制限されるようになるため、活動の制限がどの程度進んでいるのかを把握する指標として活用されています。

<文献>

※1  厚生労働省:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方について
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi2/0000173150.html
(2023年6月19日閲覧)
※2  Yancy CW, Jessup M, Bozkurt B, et al. 2013 ACCF/AHA guideline for the management of heart failure: a report of the American
College of Cardiology Foundation/American Heart Association Task Force on practice guidelines. Circulation 2013; 128: e240-e327. PMID: 23741058
※3  Criteria Committee of the New York Heart Association. Diseases of the Heart and Blood Vessels: Nomenclature and Criteria for diagnosis, 6th edition. Little, Brown and Co., 1964: 112–13
日本循環器学会・日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
(2023年6月19日閲覧)
日本循環器学会/日本心不全学会合同ガイドライン:急性・慢性心不全診療ガイドライン(2017年改訂版)
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2017/06/JCS2017_tsutsui_h.pdf
(2023年6月19日閲覧)
大八木秀和:オールカラーまるごと図解循環器疾患.照林社,2013.

兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長/副院長

佐藤 幸人先生

1987年京都大学医学部卒業。94年同大大学院卒業。2001年京都大学循環器内科助手、04年兵庫県立尼崎病院循環器内科医長、07年同科部長、23年より現職。研究テーマは心不全、バイオマーカー、チーム医療など。

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