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心不全の治療(1)薬物療法

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心不全の治療は、大きく急性期と慢性期にわかれます。急性期は緊急性が高く、救命や生命徴候の安定が優先されます。一方、慢性心不全は急性増悪を繰り返しながら徐々に進行していくため、治療の主な目的は急性増悪の予防によるステージ進展の防止です。ここでは慢性心不全の薬物療法を中心に紹介します。

心不全の基本方針

急性心不全の発症時や慢性心不全の急性増悪時は、血行動態や酸素化、うっ血症状などを改善させることで、患者の救命と生命徴候の安定を図るとともに、他臓器障害に対する治療を行います。

薬を飲む男性

一方、慢性心不全の治療では、薬物療法と非薬物療法を組み合わせることで急性増悪を防ぎ、予後の改善を図ります。

LVEF(左室駆出率)に応じた薬物療法

心不全ステージ分類のステージC以降は、LVEF(左室駆出率)に応じて治療の選択肢がわかれます。また、QOL向上や治療法選択に関する意思決定を支援することを目的に、ステージCの早期から症例によっては緩和ケアも検討されます。

<LVEFの低下した心不全(HFrEF)>
【基本薬】
ACE阻害薬/ARB+β遮断薬+MRA

ACE阻害薬/ARBからARNIへの切り替え

SGLT2阻害薬

※ACE阻害薬/ARB未使用で入院例への導入も考慮 (ただし、保険適用外)
【併用薬】
・うっ血に対する利尿薬
・洞調律75拍/分以上:イバブラジン塩酸塩
・必要に応じてジゴキシン、血管拡張薬
※このなかの組み合わせ

<LVEFの保たれた心不全(HFpEF)>
・うっ血に対する利尿薬
・併存症の治療(特に高血圧)

<LVEFが軽度低下した心不全(HFmrEF)>
個々の病態に応じて行うが、ACE阻害薬/ARBを投与している患者では、ARNIへの切り替えを考慮することができる

●ステージDの治療の選択肢

ステージCの一部とDは治療抵抗性、つまり難治性の心不全の段階になります。これまで行ってきた薬物療法や体液管理の見直しを図るとともに、症例によっては心臓移植や補助人工心臓の適応について検討する時期にあたります。

心不全のステージ分類についての解説はこちら

主な心不全治療薬の特徴

心不全治療に使われる薬は患者さんの病態に応じて選択肢があります。また、近年心不全治療薬の新しい薬も登場しています。

<ACE阻害薬>

左室収縮機能低下がある心不全に対する心不全入院の抑制効果、生命予後改善効果がある
腎機能の低下とカリウム値に注意が必要

<ARB>

左室収縮機能低下がある慢性心不全において、ACE阻害薬と同等の心血管イベント抑制効果がある
副作用などによりACE阻害薬が使用できない患者さんに対して使われることが多い
非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)との併用で高カリウム血症の悪化の可能性があるなど、相互作用に注意すべき薬剤がある

<ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)>

左室収縮機能低下があるACE阻害薬・ARBまたはβ遮断薬などの基礎治療を受けている心不全に対しては禁忌を除き、全例投与推奨
高カリウム発現のリスクがある血清カリウム高値、重度の腎機能障害などがある患者には注意が必要

<β遮断薬>

左室収縮機能低下がある心不全に対する生命予後改善効果がある

<利尿薬>

うっ血による労作時呼吸困難や浮腫などの症状軽減に用いられる
慢性期に長期投与を行う場合には長時間作用型のループ利尿薬への変更を検討する

●新しい心不全治療薬

慢性心不全の薬物療法では、イバブラジン塩酸塩(Ifチャネル阻害薬、HCNチャネル遮断薬)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬などの新しい薬も登場しています。また、sGC刺激薬や心筋ミオシン活性化薬についても心不全に対する有効性が示されるなど、患者さんの病態などに合わせた薬物療法の選択肢が広がっています。

<イバブラジン塩酸塩>
イバブラジン塩酸塩(Ifチャネル阻害薬、HCNチャネル遮断薬)は、洞調律の患者さんに対し、心拍数を低下させることで心臓の拡張時間を確保して心臓に十分な血液を戻す効果が期待できます。

<ARNI>
ARNIは、ARBのバルサルタンとネプリライシン阻害薬のプロドラッグを結合させたもので、強い心保護作用を得られる点が特徴です。そのため、ACE阻害薬やARBで十分な効果が得られなかった場合のHFrEFにおける新たな選択肢となりました。

<SGLT2阻害薬>
SGLT2阻害薬は、血圧が低い心不全患者さんの新しい選択肢として期待されています。ただし、高齢者でフレイルの可能性がある患者さんに対しては注意が必要となることやループ利尿薬の調整が必要となるケースがあります。

<文献>

日本循環器学会・日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
(2023年6月19日閲覧)
厚生労働省:脳卒中、心臓病その他の循環器病に係る診療提供体制の在り方に関する検討会
https://www.mhlw.go.jp/stf/shingi/other-kenkou_364143.html
(2023年6月19日閲覧)
筒井裕之編:ザ・ベーシックメソッド心不全薬物治療 知識を習得し、実践で活かす最強のメソッド.メジカルビュー社,2021.
木田圭亮:聞いてみよう薬剤師の知りたいこと 心不全の最新ガイドラインをキャッチアップ!知っておきた新薬のハナシ.調剤と情報,28(1):58-64,2022.
大八木秀和:オールカラーまるごと図解循環器疾患.照林社,2013.

兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長/副院長

佐藤 幸人先生

1987年京都大学医学部卒業。94年同大大学院卒業。2001年京都大学循環器内科助手、04年兵庫県立尼崎病院循環器内科医長、07年同科部長、23年より現職。研究テーマは心不全、バイオマーカー、チーム医療など。

この記事は2023年7月現在の情報となります。

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