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心不全の治療(2)非薬物療法

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慢性心不全の非薬物療法には、疾病管理、運動療法のほか、補助人工心臓や心臓移植手術、経皮的僧帽弁接合不全修復術、心臓再同期療法(CRT)、植込み型除細動器(ICD)などがあります。
急性心不全の発症時や慢性心不全の急性増悪時は、血行動態や酸素化、うっ血症状などを改善させることで、患者の救命と生命徴候の安定を図るとともに、他臓器障害に対する治療を行います。

疾病管理

心不全は、その発症リスクが高い段階からの疾病管理が重要であり、患者さんのセルフケア能力を上げていくことがポイントとなります。心不全という疾患やその治療に関する正しい知識の理解が深まるように、各専門職が連携し、患者教育を行います。

患者さんに服薬指導をする医療従事者

患者さん自身のセルフケア能力が高まることで、患者さん自身が自分の症状を観察し、手帳などに記録するなど、治療に対しても前向きに取り組むことができるようになります。また、緊急時の連絡先、連絡方法などの共有、さらに服薬アドヒアランスの評価、問題点の抽出、改善に向けた働きかけなど、疾病管理の項目は多岐にわたります。

運動療法

運動療法は、心不全のリスクが高い段階から、疾病管理と並ぶ非薬物療法の柱のひとつです。運動療法を含む心臓リハビリテーションは、運動耐容能やQOL向上※1、左室の逆リモデリング※2、再入院を防ぐ※1、3などの効果が期待できます。

ウォーキングする夫婦

運動療法は心臓リハビリテーションの一環として、心不全の治療と並行して開始します。また、回復の過程に応じて運動療法のレベルを上げながら、再発を防ぐための運動を継続します。

患者さんの運動耐容能は個人差が大きいため、定期的な受診と適切な運動耐容能の評価によって運動処方を決定し、徐々に時間や強度をあげていきます。最終的には、1回20~60分が目標となります※4

●高齢心不全患者さんのフレイル予防

慢性心不全患者さんの高齢化が進むなか、そのフレイル予防に役立つといわれているのがレジスタンストレーニングです。週2〜3回の低強度レジスタンストレーニングを運動療法に取り入れることが推奨されています※4
また、筋肉量を保つために栄養指導も行います。

心臓移植・補助人工心臓

心不全の薬物療法で救命や延命が困難な重症心疾患のなかで、拡張型心筋症および拡張相の肥大型心筋症、虚血性心筋疾患、その他小児心臓移植の適応となる患者さんに対しては心臓移植や補助人工心臓が検討されます。また、植込み型補助人工心臓は心不全の最終治療として行われることもあります。

●心臓移植

提供者(ドナー)から提供を受けた心臓を移植する手術です。重症心不全患者さんに対する最終的な治療法のひとつです。免疫抑制薬の服用などが必要となること、ドナーが少なく、手術までの待機時間が長いなど、移植を受けられる人は少ないのが実情ですが、移植手術を受けることで、生命予後やQOLの改善が見込めます※5

●補助人工心臓

血液を全身に送り出すために、ポンプ装置を埋め込む手術です。電源バッテリーの交換は必要ですが、植込み型では日常生活を送ることが可能で、リハビリテーションが進めば社会復帰も可能です。2021年5月からは心臓移植の適応がない人に対して行うことができるようになりました。

その他の非薬物療法

●経皮的僧帽弁接合不全修復術

薬物療法では十分な効果がない慢性心不全の患者さんで、高度僧帽弁閉鎖不全の改善によって症状の軽減が期待できる場合に行われることがあります。カテーテルを使い、僧帽弁をクリップで挟むことで逆流を減らす治療です。

●ペースメーカー

心不全の原因となる不整脈(徐脈性不整脈)を監視して必要時に心筋に電気信号による刺激を与えることで心臓のポンプ機能を補完するペースメーカーを植え込む手術です。

●植込み型除細動器(ICD)

心不全の原因となる不整脈(心室細動や心室頻脈)の発生時に電気ショックを与えることで突然死を防ぐ植込み型除細動器(ICD)を植え込む手術です。ICDは、徐脈時にはペースメーカーとしての機能も果たします。

●心臓同期療法(CRT)

薬物療法で治療効果が十分に得られない患者さんに対する治療の選択肢のひとつで、微弱な電気刺激を心臓の左右両方の心室に送る両室ペースメーカーを植え込む手術を行います。CRTは左右の心室の動きのタイミングを合わせることで心拍出の機能の改善を図ります。

そのほか、心不全の進行の原因となる基礎疾患の治療などを含めると、心不全に対する非薬物療法は多岐にわたり、医療従事者による患者さんや家族への正しい情報提供が重要となります。薬剤師が主に関わるのは薬物療法ですが、非薬物療法に対しても患者さんの求めに応じて説明ができるように日常的な情報収集を心がけましょう。

<文献>

※1  Long L, Mordi IR, Bridges C, et al. Exercise-based cardiac rehabilitation for adults with heart failure. Cochrane Database Syst
Rev 2019: CD003331. PMID: 30695817
※2  Haykowsky MJ, Liang Y, Pechter D, et al. A meta-analysis of the effect of exercise training on left ventricular remodeling in heart failure patients: the benefit depends on the type of training performed. J Am Coll Cardiol 2007; 49: 2329-2336. PMID: 17572248
※3  Kamiya K, Sato Y, Takahashi T, et al. Multidisciplinary Cardiac Rehabilitation and Long-Term Prognosis in Patients With Heart
Failure. Circ Heart Fail 2020; 13: e006798. PMID: 32986957
※4  日本循環器学会/日本心臓リハビリテーション学会合同ガイドライン:2021年改訂版心血管疾患におけるリハビリテーションに関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Makita.pdf
(2023年6月19日閲覧)
※5  日本循環器学会ほか合同研究班:2016年版心臓移植に関する提言
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2020/02/JCS2016_isobe_h.pdf
(2023年6月19日閲覧)
日本循環器学会・日本心不全学会合同ガイドライン:2021年JCS/JHFSガイドラインフォーカスアップデート版急性・慢性心不全診療
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2021/03/JCS2021_Tsutsui.pdf
(2023年6月19日閲覧)
日本心臓財団:心臓病用語集
https://www.jhf.or.jp/check/term/
(2023年6月19日閲覧)
国立循環器病研究センター:患者の皆様へ 補助人工心臓・心臓移植
https://www.ncvc.go.jp/hospital/pub/knowledge/disease/artificialheart/
(2023年6月19日閲覧)
日本循環器学会:弁尖間クリッピング式の経皮的僧帽弁接合不全修復システムに関する適正使用指針
https://www.j-circ.or.jp/MitraClip/tekisei_shishin.pdf
(2023年6月19日閲覧)
大八木秀和:オールカラーまるごと図解循環器疾患.照林社,2013.
筒井裕之編:ザ・ベーシックメソッド心不全非薬物治療 ICD/ CRTからVAD・移植まで網羅 知識を極め、実践で活かす最強のメソッド.メジカルビュー社,2022.

兵庫県立尼崎総合医療センター循環器内科科長/副院長

佐藤 幸人先生

1987年京都大学医学部卒業。94年同大大学院卒業。2001年京都大学循環器内科助手、04年兵庫県立尼崎病院循環器内科医長、07年同科部長、23年より現職。研究テーマは心不全、バイオマーカー、チーム医療など。

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