高血圧の原因と病態
血圧は、120/80mmHg超の状態が長期間続くと、脳心血管疾患や慢性腎臓病の合併や死亡リスクが上昇することがわかっています※1。血圧が上昇しやすい生活習慣の見直しや薬物療法などにより、他疾患の合併や死亡リスクを抑えることが重要です。
高血圧の原因
血圧が上昇する原因はさまざまで、複数の原因が重なって高血圧になる人が多いといえます。血圧が上昇する原因としては次のようなものがあります。
●心拍出量と末梢血管抵抗
血圧が上昇する要因に大きく関与しているのが心拍出量と末梢血管抵抗です。
心臓から送り出される血液量(心拍出量)が増えると血管(動脈壁)にかかる圧力(血圧)は増大します。また、血液が全身に送られるときに血管の抵抗(全末梢血管抵抗)が大きい、つまり血液の出口である末梢血管が細く、血液を押し出す際に強い力が必要になると、血管には強い圧力がかかり、血圧が上昇します(図1)。
図1 血圧を規定する因子
心拍出量についての解説はこちら
心拍出量の増大の原因としては、ストレスなどによる交感神経の影響、食塩の取りすぎによる循環血漿量の増加などがあげられます。また、末梢血管抵抗が大きくなる要因としては、レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系の活性化や動脈硬化などがあります。
●ナトリウム調節(食塩摂取量の増加)
食塩摂取量が増えると、血液中のナトリウム濃度を調整するために水分摂取量が増加して循環血漿量が増えます。この状態が続くと、ナトリウムの腎排泄量が増加して腎機能が徐々に低下し、循環血漿量が多い状態が続きます(図2)。
図2 食塩摂取と血圧
日本人は遺伝的に食塩感受性高血圧が多く、塩分が多い食事をとることで循環器疾患のリスクが高くなるといわれています※2。
●自律神経系
動脈は平滑筋の影響を受けています。平滑筋は自律神経によって支配されており、交感神経が優位なときには血管が収縮し、脈拍も早くなります。一方、副交感神経が優位なときには血管は拡張して血圧は下がり、脈拍も遅くなります。つまり、交感神経が優位な状態が続くほど、血圧は上昇しやすくなります。
自律神経はストレスの影響を受けやすく、ストレスが強いときには交感神経が優位になりやすくなります。そのため、長い間ストレスフルな環境にいると血圧が上がりやすくなります。
●レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系
レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系による血圧上昇には、大きくわけて2つの作用が関与しています(図3)。
1)アンジオテンシンIIが血管の(ATII)受容体へ結合することによる血管収縮作用の増強
2)アンジオテンシンIIが副腎皮質の(ATII)受容体へ結合することによる循環血漿量の増加
図3 レニン・アンジオテンシン・アルドステロン(RAA)系による血圧上昇
高血圧の症状
血圧が高くても自覚症状がないことがほとんどですが、血圧が大幅に上昇してしまうと頭痛やめまい、肩こりなどの症状として表れることもあります※3。ただし、これらは高血圧特有の症状ではないため、日ごろから血圧を測る習慣をつけることが重要です。
高血圧の分類
高血圧のほとんどは、生活習慣などに起因する本態性高血圧と呼ばれるものです。しかし、別の疾患が原因で血圧が上昇する病態もあります。原因がはっきりしている二次性高血圧は、血圧上昇を招く基礎疾患の治療が重要となります(図4)。
図4 高血圧の分類
高血圧による主な他疾患のリスク評価
高血圧が原因で他の疾患を発症するケースは少なくありません。高血圧以外のリスク因子も重なってメタボリックシンドロームや脳心血管疾患のリスクが高くなったり、腎機能の低下が進んで腎不全に至ったりすることがあります。
●脳心血管疾患
診察室血圧が高い人ほど脳心血管疾患のリスクが高まるといわれています※1、4。特に脳血管疾患の既往や非弁膜症性心房細動、糖尿病、蛋白尿のあるCKDがある人、65歳以上、男性、脂質異常症、喫煙習慣がある人は注意が必要です。
●慢性腎臓病(CKD)
高血圧は、慢性腎臓病(CKD)のリスクを高めることがわかっており※5、CKDに至ると、血圧の管理がより難しくなる悪循環に陥ります。そのため、CKDがある高血圧患者さんの場合、降圧目標はより厳格になります。
このほか、高血圧は睡眠時無呼吸症候群のリスクを高めたり、高齢になってからの血管性認知症のリスクを高めたりすることがわかっています※6。
<文献>
※1 | Fujiyoshi A, et al.; Observational Cohorts in Japan (EPOCHJAPAN) Research Group. Blood pressure categories and longterm risk of cardiovascular disease according to age group in Japanese men and women. Hypertens Res. 2012; 35: 947-953.PMID: 22739419 |
※2 |
国立がん研究センターがん対策研究所予防関連プロジェクト:多目的コホート研究 塩分・塩蔵食品と、がん・循環器疾患の関連について
https://epi.ncc.go.jp/jphc/outcome/380.html (2023年7月24日閲覧) |
※3 |
日本臨床内科医会:わかりやすい病気のはなしシリーズ9 高血圧
https://www.japha.jp/general/byoki/hbp.html (2023年7月24日閲覧) |
※4 |
Nippon Data 80 Research Group. Impact of elevated blood pressure on mortality from all causes, cardiovascular diseases,
heart disease and stroke among Japanese: 14 year follow-up of randomly selected population from Japanese -- Nippon data 80. JHum Hypertens. 2003; 17: 851-857. PMID: 14704729 |
※5 | Yamagata K, et al. Risk factors for chronic kidney disease in a community-based population: a 10-year follow-up study. Kidney Int. 2007; 71: 159-166. PMID: 17136030 |
※6 | Ninomiya T, et al. Midlife and late-life blood pressure and dementia in Japanese elderly: the Hisayama study. Hypertension. 2011; 58: 22-28. PMID: 21555680 |
・ | 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編: 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 東京, 2019. |
・ | 日本高血圧学会高血圧診療ガイド2020作成委員会編:高血圧診療ガイド2020 高血圧治療ガイドライン2019準拠.文光堂,2020. |
・ | 大八木秀和:オールカラーまるごと図解循環器疾患.照林社,2013. |
・ | 日本腎臓学会:エビデンスに基づくCKD診療ガイドライン2023.東京医学社,東京,2023. |
佐賀⼤学医学部⻑
野出 孝一先生
1961年生まれ。1988年 佐賀医科大学卒業。1997年 大阪大学大学院修了。同年、ハーバード大学循環器科博士研究員。2002年 大阪大学第一内科講師。同年、 佐賀大学医学部循環器内科教授。2008年 佐賀大学医学部附属病院長特別補佐・地域連携室長・ハートセンター長。2014年 佐賀大学医学部心不全治療学教授。2015年 佐賀大学医学部附属病院臨床研究センター長。2016年より佐賀大学医学部医学科内科学講座主任教授を務める。2017年佐賀大学先進心不全医療学教授。2023年佐賀大学医学部⾧に就任。日本高血圧学会理事⾧。
この記事は2023年7月現在の情報となります。