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高血圧の治療(2)非薬物療法

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薬物療法と並び、高血圧治療の柱となるのが生活習慣の改善などの非薬物療法です。生活習慣の改善は、薬物療法の効果を高めるともいわれており、併存する生活習慣病の改善も期待できます。医療従事者は、高血圧の改善につながる生活習慣が“習慣化”できるように患者さんの支援を継続することが重要です。

減塩

厚生労働省の『日本人の食事摂取基準(2020年版)』では、1日の塩分摂取について食塩相当量6g/日未満とすることを目標としています※1

栄養バランスのとれた食事

減塩対策のひとつに減塩の調味料やうまみ成分が豊富な出汁を使うといった方法があげられます。また、塩分濃度計を使ってこまめに塩分をチェックし、食事内容を記録するなど、摂取している塩分を可視化することで意識づけをはかるといった方法も一案です。

食事内容

毎日の食事では、飽和脂肪酸やコレステロールの摂取を抑えることを心がけ、カリウムが豊富な野菜や果物、多価不飽和脂肪酸や低脂肪乳製品を積極的に摂るように指導します。

ただし、肥満や糖尿病などがあり、エネルギー摂取の制限が必要な患者さんの場合、果物の摂取は80kcal/日程度にとどめます。また、カリウムが制限されているCKDの患者さんは野菜や果物の積極的な摂取は勧められません。

●食事療法のヒント

(1)DASH食
DASH(Dietary Approach to Stop Hypertension)食は、野菜・果物・低脂肪乳製品が豊富で飽和脂肪酸とコレステロールが少ないものです。このDASH食に減塩を加えたDASH−sodium食が高血圧改善に役立つといわれています。

(2)地中海食
地中海食は、地中海沿岸の伝統的な食事で、野菜や果物、未精製の穀物(パンなど)、豆類、果実類などを中心にした食品を使っているのが特徴です。加工食品は少なめにし、できるだけ新鮮な旬の食材を使います。また、多価不飽和脂肪酸が多いナッツ類やオリーブオイルを使うのも特徴です。

独居の高齢者などで食事を自らつくることができない場合には、経済的な負担も考慮したうえで減塩食の宅配サービスの利用なども検討します。

適正体重の維持

BMIが高い状態にあると、血圧コントロールが不良になりやすいという報告※2や、20歳の時点で肥満があると将来高血圧になりやすいといった報告もあります※3。特に若年期から中高年にかけて体重が増加した人は高血圧を発症しやすいとされており、食事と運動の併用、生活習慣の改善によって適正体重を目指すことが重要です。

適正体重:BMI(体重[kg]÷身長[mb]2)=25未満

運動療法

運動を開始するとその直後から血圧が低下し、22時間程度その効果が続くとされています※4。そのため、血圧を安定させるためには、軽強度の有酸素運動(動的および静的筋肉負荷運動)を毎日30分以上、または週180分以上行うことが効果的だといわれています※5。息を止めなければいけないほどのハードな筋肉トレーニングを続けてしまうと、逆に血圧が上昇してしまうことがあります。軽い筋肉トレーニングを組み込むときにも息は止めずに、負荷をかけすぎないように注意します。

<推奨される主な運動>

速歩やランニングなど主な運動療法

節酒

大量の飲酒は高血圧だけでなく脳卒中や心房細動、がんなどの原因になることがわかっています。高血圧の治療においては、エタノールで男性20〜30mL/日、女性は10〜20mL/日以下への制限が重要で、節酒によって1〜2週間で降圧効果が期待できます※6、7

<エタノール20~30mL以下のお酒の量>

エタノール20~30mL以下のお酒の量

禁煙

タバコを1本吸うことで15分以上血圧が上昇するだけでなく※8、交感神経が優位となったり、血管収縮を起こしたりすることで動脈硬化が進みます。これが持続的な高血圧につながるため、禁煙が推奨されます。

禁煙後は体重が増加しやすいといわれているため、血圧管理のための適正体重の維持や食事管理はより一層注意が必要です。

<文献>

※1  厚生労働省:日本人の食事摂取基準(2020年版)
https://www.mhlw.go.jp/content/10904750/000586553.pdf
(2023年7月24日閲覧)
※2  Masanobu Yamazato,et al:Publisher Correction: Salt and potassium intake evaluated with spot urine and brief
questionnaires in combination with blood pressure control status in hypertensive outpatients in a real-world setting.
Hypertens Res 2021;44(10):1362.
※3  Yoriko Heianza,et al:Role of body mass index history in predicting risk of the development of hypertension in Japanese
individuals: Toranomon Hospital Health Management Center Study 18 (TOPICS 18).Hypertension 2014;64(2):247-52.
※4  Pescatello LS, et al. The aftereffects of dynamic exercise on ambulatory blood pressure. Med Sci Sports Exerc. 2001; 33: 1855-1861. PMID: 11689735
※5  Brook RD, et al.; American Heart Association Professional Education Committee of the Council for High Blood Pressure
Research, Council on Cardiovascular and Stroke Nursing, Council on Epidemiology and Prevention, and Council on Nutrition,
Physical Activity. Beyond medications and diet: alternative approaches to lowering blood pressure: a scientifi c statement from
the american heart association. Hypertension. 2013; 61: 1360-1383. PMID: 23608661
※6  Puddey IB, et al. Regular alcohol use raises blood pressure in treated hypertensive subjects. A randomised controlled trial.
Lancet. 1987; 329: 647-651. PMID: 2882082
※7  Ueshima H, et al. Effect of reduced alcohol consumption on blood pressure in untreated hypertensive men. Hypertension.1993; 21: 248-252. PMID: 8428787
※8  Groppelli A, et al. Persistent blood pressure increase induced by heavy smoking. J Hypertens. 1992; 10: 495-499. PMID: 1317911
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編: 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 東京, 2019.
藤瀬遥:薬剤師との連携で患者のQOL向上!管理栄養士がおさえておきたい薬の知識 3食品・嗜好品と医薬品の相互作用.Nutrition
Care 15(12):p24-28, 2022.
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編: 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 東京, 2019.
日本高血圧学会高血圧診療ガイド2020作成委員会編:高血圧診療ガイド2020 高血圧治療ガイドライン2019準拠.文光堂,2020.
日本高血圧学会減塩委員会編:理論から実践まで減塩のすべて.南江堂,2019.

佐賀⼤学医学部⻑

野出 孝一先生

1961年生まれ。1988年 佐賀医科大学卒業。1997年 大阪大学大学院修了。同年、ハーバード大学循環器科博士研究員。2002年 大阪大学第一内科講師。同年、 佐賀大学医学部循環器内科教授。2008年 佐賀大学医学部附属病院長特別補佐・地域連携室長・ハートセンター長。2014年 佐賀大学医学部心不全治療学教授。2015年 佐賀大学医学部附属病院臨床研究センター長。2016年より佐賀大学医学部医学科内科学講座主任教授を務める。2017年佐賀大学先進心不全医療学教授。2023年佐賀大学医学部⾧に就任。日本高血圧学会理事⾧。

この記事は2023年7月現在の情報となります。

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