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併存症がある患者さんの高血圧治療

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高血圧がある患者さんは、複数の疾患を併発していることが多く、それが脳血管疾患のリスクをさらに高めます。血圧管理だけでなく、併存症も合わせて治療、管理を行うことが重要です。

糖尿病

・降圧療法(生活習慣の改善)開始基準:130/80mmHg以上
1か月後の再評価で十分な降圧が得られない場合には薬物療法を開始します。

自己注射をする患者さん

<微量アルブミン尿または蛋白尿がある場合>
・第一選択薬:ARBまたはACE阻害薬

<微量アルブミン尿または蛋白尿がない場合>
・ARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、少量のサイアザイド系利尿薬から、患者さんの病態に合わせて選択

十分な降圧効果が得られない場合には、用量の追加や薬の併用を検討します。

脂質異常症

脂質異常症を併発する高血圧患者さんに対する薬物療法では、ARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬などの脂質代謝に影響しない薬剤などから選択します。また、高LDLコレステロールの管理では、スタチン系が第一選択薬となります。

肥満

肥満者の高血圧発症率は非肥満者の2〜3倍とされています※1。肥満がある人は睡眠時無呼吸症候群の発症リスクも高く、複数の疾患を併発すると、さらに血圧が上昇しやすい状態になります。

食事療法や運動療法による減量に取り組んでも十分な降圧効果が得られない場合、ARBやACE阻害薬による薬物療法を行います。心血管疾患のリスクが高い患者さんに対しては、ACE阻害薬に長時間作用型のCa拮抗薬もしくはサイアザイド系利尿薬を併用します。

メタボリックシンドローム

メタボリックシンドロームの人の高血圧治療で重要となるのが食事療法、運動療法による内臓脂肪型肥満の解消です。薬物療法では、糖尿病の発症や進行を防ぐためにインスリン抵抗性改善効果のあるARB、ACE阻害薬、Ca拮抗薬、α遮断薬などが選択されます。

睡眠時無呼吸症候群

睡眠時無呼吸症候群(OSAS)と高血圧は相互に併存リスクが高いとされている疾患です。

<OSAS患者さんの血圧の特徴>

・日中に血圧が上昇しやすい

・夜間も血圧が下がりにくい

・家庭血圧が早朝高血圧である など

睡眠時無呼吸症候群の患者さん

治療は、生活習慣の改善強化やCPAP(持続陽圧呼吸)、薬物療法では、β遮断薬やCa拮抗薬、ACE阻害薬、ARBなどが使われます。OSASの患者さんでは、特に夜間血圧を含めた厳格な降圧療法が望ましいとされています。

痛風・高尿酸血症

・尿酸値8.0mg/dL以上:尿酸降下薬による治療開始⇒管理目標:6.0mg/dL以下

高血圧の治療は、尿酸代謝に影響しないCa拮抗薬やARB、ACE阻害薬が選択されます。また、一部ARBとCa拮抗薬の併用によって痛風発作のリスクが軽減するという報告もあります。

気管支喘息・COPD

気管支喘息の患者さんの降圧療法では、Ca拮抗薬やα遮断薬などが使われます。咳の副作用のあるACE阻害薬は気管支喘息の悪化と区別がつきにくく、避ける必要があるとされています。

COPDを伴う高血圧に対しては、ACE阻害薬やARB、Ca拮抗薬、利尿薬などが使われます。脳心血管疾患を予防するためには、COPDの治療と血圧の管理を並行して行うことが重要です。

肝疾患

ARBやACE阻害薬は、肝臓の繊維化を抑制する可能性があることが報告されており※2、高血圧治療においては、肝臓への影響を考えた薬剤が選択されます。

認知症

降圧薬による治療が高齢高血圧の患者さんの認知症を予防するという明確なエビデンスはないものの、降圧療法によって血圧を管理することがQOLの維持につながります。

女性の高血圧

●妊娠高血圧症候群

妊娠高血圧は、母体だけでなく胎児にも影響を及ぼします。妊娠中期以降の胎児毒性があるACE阻害薬やARBは禁忌となっているため、薬剤師による服薬管理が重要となります。

●更年期の高血圧

女性は、閉経を機に女性ホルモンの影響を受けなくなることで血圧が上がりやすくなります。閉経前から食事や運動などの生活習慣の改善を指導することが重要です。

<文献>

※1  平成4年版 国民栄養の現状―平成2 年国民栄養調査成績―.第一出版; 1992. p121.
※2  Kim G, et al. Renin-angiotensin system inhibitors and fi brosis in chronic liver disease: a systematic review. Hepatol Int. 2016; 10:819-828. PMID: 26903052
日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編: 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 東京, 2019.
日本高血圧学会高血圧診療ガイド2020作成委員会編:高血圧診療ガイド2020 高血圧治療ガイドライン2019準拠.文光堂,2020.
メタボリックシンドローム診断基準検討委員会:メタボリックシンドロームの定義と診断基準.日本内科学会雑誌,94:188-203,2005.
日本呼吸器学会:睡眠時無呼吸症候群(SAS)の診療ガイドライン2020.南江堂,東京,2020.
https://www.jrs.or.jp/publication/file/guidelines_sas2020.pdf
(2023年7月24日閲覧)
日本痛風・核酸代謝学会治療ガイドライン作成委員会:2019年改訂高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版2022年追補版.診断と治療社,東京,2022.
厚生労働省e-ヘルスネット:健康用語辞典 喫煙 喘息(ぜんそく)
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/tobacco/yt-022.html
(2023年7月24日閲覧)
厚生労働省委託働く女性の心とからだの応援サイト:妊娠出産・母性健康管理サポート 母性健康管理に関する用語辞典 妊娠高血圧症候群(妊娠中毒症)
https://www.bosei-navi.mhlw.go.jp/glossary/symptom09.html
(2023年7月24日閲覧)

佐賀⼤学医学部⻑

野出 孝一先生

1961年生まれ。1988年 佐賀医科大学卒業。1997年 大阪大学大学院修了。同年、ハーバード大学循環器科博士研究員。2002年 大阪大学第一内科講師。同年、 佐賀大学医学部循環器内科教授。2008年 佐賀大学医学部附属病院長特別補佐・地域連携室長・ハートセンター長。2014年 佐賀大学医学部心不全治療学教授。2015年 佐賀大学医学部附属病院臨床研究センター長。2016年より佐賀大学医学部医学科内科学講座主任教授を務める。2017年佐賀大学先進心不全医療学教授。2023年佐賀大学医学部⾧に就任。日本高血圧学会理事⾧。

この記事は2023年7月現在の情報となります。

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