高血圧患者さんへの服薬指導のポイント
高血圧をはじめ自覚症状がない生活習慣病の場合、患者さんが自己判断で通院をやめてしまったり、薬を飲まなくなったりして治療が中断されてしまうことが大きな問題となります。また、高齢者では認知機能や日常生活動作(ADL)も服薬における課題となります。
高血圧患者さんの服薬課題
服薬アドヒアランスは血圧の管理や心血管疾患の予防に寄与するもので、薬剤はできるだけ単剤で1日1回型が望ましく、夕方よりも朝の服用のほうが服薬アドヒアランスは高まるとされています※1。また、配合薬への切り替えも服薬アドヒアランス向上につながります※1。
ただし、「朝は多忙で服薬を忘れてしまう」「他の薬と同じタイミングで服用したほうが飲み忘れない」といったケースも考えられます。患者さんが継続しやすい方法を提案するためにも、薬剤師による生活状況の聞き取りが重要です。服薬カレンダーを使ったり、アプリのアラート機能を活用したりと、患者さんの普段の習慣を取り入れた方法で管理すると、服薬アドヒアランスがよくなります(表1)。
服薬数を少なく | 降圧薬や胃薬など同効果2~3剤を力価の強い1剤か合剤にまとめる |
服薬法の簡便化 |
1日3回服用から2回あるいは1回への切り替え
食前、食直後、食後30分など服薬方法の混在を避ける |
介護者が管理しやすい服用法 | 出勤前、帰宅後などにまとめる |
剤形の工夫 | 口腔内崩壊錠(OD錠)や貼付剤の選択 |
一包化調剤の指示 |
長期保存できない、途中で用量調節ができない欠点あり
緩下剤や睡眠薬など症状によって飲み分ける薬剤は別にする |
服薬カレンダー、薬ケースの利用 |
【出典】日本老年医学会編:改訂版健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス.154,2019. より転載
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/handbook2019.pdf
●複数の医療機関からの処方内容を確認する
高血圧の患者さんは複数の疾患が併存していることが多く、複数の医療機関から処方せんが出ているケースも少なくありません。副作用や相互作用の確認だけでなく、処方過誤などの医師への報告も薬剤師の重要な役割です。
高齢高血圧患者さんの服薬管理
高齢者は認知機能や視力、日常生活動作(ADL)の低下がアドヒアランス低下の要因となります。同居する家族などからの聴取や介護サービスを利用している人であればケアマネジャーと情報を共有し、服薬管理の依頼も検討します。
また、高齢患者さんの場合、薬の副作用が出やすくなることがあります。しかし、気になる症状があっても自ら医療従事者に申し出なかったり、自己判断で中止してしまったりする患者さんも少なくありません。具体的な副作用による症状の有無の確認、食事や身体活動などの聞き取りをするなかで、困った症状がないかなどを確認します。
●治療抵抗性高血圧の患者さんに対する薬学的視点でのアプローチ
治療抵抗性の高血圧は、その原因が服薬アドヒアランス低下にある可能性も考えられます。追加された薬を服用していなかったり、用量が増えているにもかかわらず、以前の用量のまま服用していたり、「あまり薬を飲みたくない」などと自己判断で患者さんが自己調節している可能性も考慮したうえで、患者さんから十分聞き取りを行うことが重要です。
アドヒアランス向上のための服薬指導
アドヒアランスをよくするための工夫だけでなく、患者さんが治療に前向きに取り組めるように声がけをしたり、励ましたりと、一緒に取り組んでいく姿勢をみせることも大切です。
●患者さんが理解できる言葉を使う
服薬指導時に限りませんが、医療従事者が使う専門用語が患者さんの疾患、治療理解が進まない要因になることがあります。患者さんの理解度にもよりますが、患者さんに正確な情報が伝わるように、できるだけわかりやすい言葉を使って指導することを心がけます。
●患者さんとの良好な関係を築くために
度重なる服薬忘れがあるにもかかわらず、「服薬し忘れていることを伝えたら怒られるのではないか」と、医療従事者の前では取り繕おうとしてしまう患者さんもいます。長期的な管理が必要な高血圧の治療では、患者さんから正確な情報を得ることが重要であり、安心して話ができるように、共感的な姿勢で患者さんの話を傾聴することが大切です。患者さんとの日ごろからの良好なコミュニケーションが、服薬管理の質の向上につながります。
<文献>
※1 | Bangalore S, et al. Fixed-dose combinations improve medication compliance: a meta-analysis. Am J Med. 2007; 120: 713-719. PMID: 17679131 |
※2 |
日本老年医学会編:改訂版健康長寿診療ハンドブック―実地医家のための老年医学のエッセンス.154,2019.
https://www.jpn-geriat-soc.or.jp/publications/other/pdf/handbook2019.pdf (2023年7月24日閲覧) |
・ | 日本高血圧学会高血圧治療ガイドライン作成委員会編: 高血圧治療ガイドライン2019. ライフサイエンス出版, 東京, 2019. |
・ | 日本高血圧学会高血圧診療ガイド2020作成委員会編:高血圧診療ガイド2020 高血圧治療ガイドライン2019準拠.文光堂,2020. |
・ | かかりつけ薬剤師のための疾患別薬学管理マニュアル.じほう,東京,2018. |
・ | 秋下雅弘編著・竹屋泰著:高齢者のポリファーマシー多剤併用を整理する知恵とコツ 高血圧.南山堂,2016. |
・ | 佐古守人編・土岐真路:循薬ドリル第14回GFJを超えてゆけ!!薬剤師がもっとできる高血圧患者のケア.月刊薬事,64(8):115−123,2022. |
佐賀⼤学医学部⻑
野出 孝一先生
1961年生まれ。1988年 佐賀医科大学卒業。1997年 大阪大学大学院修了。同年、ハーバード大学循環器科博士研究員。2002年 大阪大学第一内科講師。同年、 佐賀大学医学部循環器内科教授。2008年 佐賀大学医学部附属病院長特別補佐・地域連携室長・ハートセンター長。2014年 佐賀大学医学部心不全治療学教授。2015年 佐賀大学医学部附属病院臨床研究センター長。2016年より佐賀大学医学部医学科内科学講座主任教授を務める。2017年佐賀大学先進心不全医療学教授。2023年佐賀大学医学部⾧に就任。日本高血圧学会理事⾧。
この記事は2023年7月現在の情報となります。