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静脈血栓塞栓症の治療

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静脈血栓塞栓症の治療の中心は抗凝固療法です。肺血栓塞栓症の合併がなく、全身状態や下肢症状が安定している深部静脈血栓症の患者さんや適切に選択された低リスクの肺血栓塞栓症の患者さんは、初期治療から外来で行うことがあります※1)

薬を飲む男性

抗凝固薬による静脈血栓塞栓症の治療

静脈血栓塞栓症の抗凝固療法では、未分画ヘパリン、フォンダパリヌクス、直接経口抗凝固薬(direct oral
anticoagulant : DOAC)、ワルファリンが使われます※1)。経口薬のDOACとワルファリンは外来治療で使用できますが、多く使われているのは、初期治療から使用可能なDOACです。

DOACは、トロンビンや血液凝固第Xa因子の働きを直接抑制して血栓の形成を防ぐ経口抗凝固薬です。このうち、国内で静脈血栓塞栓症に適応があるのは、血液凝固第Xa阻害薬のリバーロキサバン、アピキサバン、エドキサバンです※2、3、4、5)

●抗凝固療法の進め方

静脈血栓塞栓症の治療では、患者さんの再発リスクと出血リスクを踏まえて薬剤や投与量を選択します。通常は、初期治療(7~21日)、維持治療(初期治療後~3か月間)、延長治療(必要に応じて3か月以降)の3段階にわけられます※1)

初期治療は、十分な抗凝固作用を得るために、DOACの常用量の2倍量投与、非経口凝固薬の投与などを行います。選択する薬剤によって初期治療の期間が異なります(図1)※2、3、4、5)

図1  静脈血栓塞栓症におけるDOACの投与レジメン※2、3、4)

静脈血栓塞栓症におけるDOACの投与レジメン
各薬剤電子化された添付文書より作図

静脈血栓塞栓症治療におけるDOACの注意点

DOACには、静脈血栓塞栓症のほか、非弁膜症性心房細動における虚血性脳卒中および全身性塞栓症の発症抑制などの適応があります。静脈血栓塞栓症に使用する場合、非弁膜症性心房細動の用法および用量と異なる場合があります(表1)※2、3、4)

表1 静脈血栓塞栓症と非弁膜症性心房細動におけるDOACの用法および用量(成人)※2、3、4)
薬剤名 適応 用法および用量
リバーロキサバン 静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制 通常、成人には深部静脈血栓症又は肺血栓塞栓症発症後の初期3週間はリバーロキサバンとして15mgを1日2回食後に経口投与し、その後は15mgを1日1回食後に経口投与する。
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制 通常、成人にはリバーロキサバンとして15mgを1日1回食後に経口投与する。なお、腎障害のある患者に対しては、腎機能の程度に応じて10mg1日1回に減量する。
アピキサバン 静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制 通常、成人にはアピキサバンとして1回10mgを1日2回、7日間経口投与した後、1回5mgを1日2回経口投与する。
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制 通常、成人にはアピキサバンとして1回5mgを1日2回経口投与する。
なお、年齢、体重、腎機能に応じて、アピキサバンとして1回2.5mg 1日2回投与へ減量する。
エドキサバントシル酸塩水和物 静脈血栓塞栓症(深部静脈血栓症及び肺血栓塞栓症)の治療及び再発抑制 通常、成人には、エドキサバンとして以下の用量を1日1回経口投与する。
 体重60kg以下:30mg
 体重60kg超:60mg なお、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量する。
非弁膜症性心房細動患者における虚血性脳卒中及び全身性塞栓症の発症抑制 通常、成人には、エドキサバンとして以下の用量を1日1回経口投与する。
 体重60kg以下:30mg
 体重60kg超:60mg なお、腎機能、併用薬に応じて1日1回30mgに減量する。
また、出血リスクが高い高齢の患者では、年齢、患者の状態に応じて1日1回15mgに減量できる。

各薬剤電子化された添付文書より作表

※なお、上記薬剤の使用にあたっては各薬剤の電子化された添付文書を参照してください。

●調剤時の診断名の確認

DOACは、適応によって用法・用量が異なり、処方箋のみでは疾患や治療状況を把握できないことがあります※6)。患者さんから診断名とこれまでの治療の経過などの情報を収集しましょう。

また、患者さんの年齢や体重、腎機能の状態などによって増大する出血リスクを考慮して用量が変更されることがあります※6)。薬剤師は、必要に応じて医師に治療方針を確認したうえで服薬指導を行います。

<文献>

※1)  日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会合同ガイドライン:2025年改訂版肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Tamura.pdf
(2025年4月1日閲覧)
※2)  医薬品医療機器総合機構:電子添付文書 リバーロキサバン錠10mg「バイエル」/リバーロキサバン錠15mg「バイエル」
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/641522_3339003F1040_1_01
(2025年4月8日閲覧)
※3)  医薬品医療機器総合機構:電子添付文書 エリキュース錠🄬 2.5mg/エリキュース🄬錠5mg
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/670605_3339004F1029_1_20
(2025年4月8日閲覧)
※4)  医薬品医療機器総合機構:電子添付文書 リクシアナ錠🄬15mg/リクシアナ🄬錠30mg/リクシアナ🄬錠60mg
https://www.pmda.go.jp/PmdaSearch/iyakuDetail/ResultDataSetPDF/430574_3339002F1020_1_18
(2025年4月8日閲覧)
※5)  中村真潮:特集 DOACの常識・非常識―抗血栓療法新時代に向けて― PE/DVT治療もDOAC選択の時代へ.
Heart View,21(1):98-105,2017.
※6)  中村真潮:特集 処方箋の裏側スペシャル 静脈血栓塞栓症 一筋縄ではいかないNOACの処方箋投与レジメン多様、減量例も多く.
NIKKEI Drug Information,229:PE002-003,2016.

PP-Ri_GX-JP-0071-17-04

中村 真潮先生

陽だまりの丘なかむら内科 院長

中村 真潮 先生

1988年三重大学医学部卒業。同大学内科学第一講座に入局後、上野総合市民病院、三重大学医学部附属病院、米国Baylor大学循環器内科勤務等を経て、1999年に遠山病院内科医長、2002年岩崎病院内科部長、2006年三重大学大学院循環器内科学助手、同大学大学院講師、同大学附属病院総合内科科長などを経て、2011年三重大学大学院臨床心血管病解析学講座教授に就任。2017年より現職。日本内科学会総合内科専門医、日本循環器学会循環器専門医、日本高血圧学会高血圧専門医、日本動脈学会動脈硬化専門医、日本血栓止血学会血栓止血認定医。日本腫瘍循環器学会理事など。

この記事は2025年3月現在の情報となります。

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