循環器領域のポリファーマシー対策
Q.処方見直しを検討する際に優先すべきことは何ですか?
A.ポリファーマシー対策は、薬の種類(数)を減らすことだけが目的ではありません。
・適切・不適切なポリファーマシーを評価する
・シェアード・ディシジョン・メイキングによる減薬
・「おくすり手帳」の活用と保険薬局の役割
などがポイントになります。
循環器疾患がある患者さんの多くは血圧や脂質などの管理、予後の改善などを目的に数種類の薬剤を服用しています。とくに高齢者は、多疾患併存の状態にあることが多く薬剤の種類が増える傾向にあります。そのなかで、どのようにポリファーマシー対策を進めれば良いのか、ポイントを解説します。
適切・不適切な
ポリファーマシーを評価する
循環器疾患の患者さんは、発症した疾患(虚血性心疾患、脳梗塞など)の治療や再発予防のための薬剤に加え、その原因となった生活習慣病(高血圧、脂質異常症、糖尿病など)に対する薬剤も継続して服用する必要があります。そのため、適切な服薬管理がなされていないと、ポリファーマシーによる問題が起こりやすくなります(表)。
表 循環器患者さんにポリファーマシーが生じやすい背景
| ・ | 発症した疾患の背景にある生活習慣病の治療も継続する必要がある |
| ・ | 循環器疾患以外に複数の併存疾患のある患者さんが多い(とくに高齢者) |
| ・ | 作用の症状に対する薬剤の処方が多い(処方カスケード) |
| ・ | 複数の診療科(医療機関)を受診している患者さんの重複処方や相互作用などのチェックが不十分 など |
●適切なポリファーマシーとは
一般的にポリファーマシーとされる薬剤の種類は5種類以上となっていますが、問題となるのは有害事象の有無であり、薬剤の種類が多い状態だけを指すものではありません。
たとえば、左室駆出率が低下した心不全患者さんに対しては、心機能低下の進行や再入院を防ぐために4つの薬剤(ARNI、β遮断薬、MRA、SGLT2阻害薬)を組み合わせるのが基本です。ここに心不全の原因となった生活習慣病、加齢に伴い増加する併存疾患の治療薬が加われば、いわゆるポリファーマシーの状態になるのは避けられません。しかし、患者さんの疾患管理に必要な薬剤が正しい評価のもとで処方されている場合は、“適切なポリファーマシー”であると考えることができます。
●不適切なポリファーマシー
一方、“不適切なポリファーマシー”は、患者さんの抱えている疾患や受診している医療機関、診療科での処方が正しく評価・管理されていない状態を指します。循環器疾患をはじめとする慢性疾患では、漫然と処方が継続されてしまったり、副作用を抑えるために薬剤が追加されたり、一時的な症状の発現で追加された薬剤が処方箋に残り続けてしまうことがあります。薬剤師には、この“不適切なポリファーマシー”をいかに解消するかが求められています。
(1)処方されている薬剤が患者さんの疾患管理に必要なものかどうかを評価する
まず、患者さんが現在服用している薬剤の循環器疾患治療への影響や有害事象を評価します。たとえばNSAIDsは、心不全患者さんへの使用によって症状悪化や死亡のリスク※1、2)となったり、心筋梗塞や脳血管障害リスクを高めたりすることがわかっています※3)。しかし、併存疾患の治療などでNSAIDsと心不全などの治療薬が処方されているケースは決して少なくありません。とくに処方頻度が高く、循環器疾患の治療への影響がある薬剤については、薬・薬連携で情報を共有すること、患者さんにも併用による影響などを十分に説明したうえで患者さんから医師に伝えてもらうことなどで、減薬を進めていくことが重要となります。
また、薬の種類が多くなるほど服薬アドヒアランスが低下することがわかっています※4)。循環器疾患の管理に必要な薬剤以外で飲まなくてもよい薬剤がある場合には、患者さんに丁寧に説明し、同意を得たうえで医師に減薬を提案しましょう。減薬した後の患者さんへの聞き取り、評価も重要です。
(2)副作用リスクのある薬剤の変更を提案する
循環器疾患の治療を継続するためにも副作用の症状を抑えることは重要です。しかしこれは、副作用を抑えるために薬剤が追加され、さらに追加した薬の副作用を抑えるために別の薬剤が追加されるといった悪循環(処方カスケード)のリスクとなります。「おくすり手帳」のチェックや患者さんへの聞き取りで、各薬剤が何を目的に処方されているのかを確認しましょう。患者さんと相談しながら服用が必要な薬剤を整理していくことで処方カスケードを防ぐことが重要です。
副作用の症状に対する薬剤が処方されている場合には、その薬剤を中止することによる影響、別の薬剤への切り替えが可能かどうかを検討したうえで医師に提案します。
(3)患者側の要因を改善する指導
循環器疾患の原因となる生活習慣を改善することによって薬剤を削減できる可能性があります。いきなり100点満点を目指すのではなく、患者さんが何から取り組めるのかを一緒に考え、普段の食事において少しでも塩分を控える意識をもってもらうなど、一歩ずつ取り組みを進められるように支援しましょう。
患者さんの生活習慣を詳細に聞き取るなかで、患者さんの誤認識による生活習慣が明らかになることもあります。たとえば、「健康的な飲み物だから」という理由で食事とは別にエネルギー量が高く糖分の多い野菜ジュースを毎日飲んでいるといったことがあげられます。患者さん自身が良いと感じて行っている行動だからこそ、表面化しにくいため、丁寧に聞き取りを行うことが大切です。
●医師に減薬を提案する際のポイント
実際に医師への減薬の提案・相談をするためには、(1)副作用、相互作用などのリスクが高まることによる疾患の治療に対する影響、(2)ポリファーマシーによる服薬アドヒアランスの低下、という2点がポイントです。これらを整理して医師に伝えることで、処方の見直しにつながりやすくなります。
●患者さんへの服薬指導
服薬指導の際には、必ず服用しなければならない薬剤と飲み忘れてもすぐに問題とならない薬剤を区別して提示することも大切です。とくに服薬アドヒアランスが低下しやすい患者さんには、「これだけは飲み忘れないでください」と、明確に伝えましょう。
シェアード・ディシジョン・メイキングによる減薬
医療従事者主導による減薬は、患者さんに不安を抱かせる要因となって、相談がないまま別の医療機関を受診されてしまうことになり、減らしたはずの薬剤がいつの間にか追加されるという事態を引き起こしやすくなります。
これを防ぐためにも、患者さん自身が減薬について納得し、選択していく過程が重要です。薬剤を減らす理由、減らした薬剤の影響で患者さんに何らかの症状が出た場合の対応などを丁寧に説明しましょう。患者さんが選択していく過程を大事にすることが、不要な薬剤追加を防ぐことにつながります。
「おくすり手帳」の活用と保険薬局の役割
“不適切なポリファーマシー”の解消には、地域の薬局薬剤師が患者さんの薬歴を把握することが重要となります。
処方医に確認し、保険薬局で減薬を行った場合には、その理由も「おくすり手帳」に記載しましょう。とくに複数の医療機関を受診している患者さんの場合、減薬の理由が共有されないままだと、次回受診時に減らしたはずの薬剤が再び処方されてしまうことがあります。
院内処方を行っている医療機関では、「おくすり手帳」への記載が行われていなかったり、別の保険薬局での調剤記録が手帳に記載されていなかったりすることがあります。調剤当日の処方内容を記載するだけでなく、他の医療機関で追加された薬剤がないかを必ず確認しましょう(図)。
図 保険薬局によるポリファーマシー対策(例)
服薬指導お役立ちコラム
患者さんの疾患や病態に応じた薬剤情報提供書の使い方
患者さんへの服薬指導に用いられる薬剤情報提供書は、記載された薬剤の説明と処方目的が異なることがあります。一例として、心不全患者さんに心保護作用を期待して処方される降圧薬*などがあげられます。血圧コントロール良好な患者さんが薬剤情報提供書の「血圧を下げるおくすりです」という記載を見たら、「血圧が下がりすぎてしまうのでは?」と不安に感じてしまうかもしれません。薬剤情報提供書を渡す際には、なぜこの患者さんにこの薬剤が処方されているのかを考え、「心臓の負担を減らす」「心臓の働きを助ける」などのコメントを加えて丁寧に説明を行いましょう。
保険薬局では患者さんのカルテを確認することはできませんが、処方箋からもある程度疾患名を推測できます。たとえば、高血圧の患者さんに対する降圧薬は、降圧効果が高いARBなどの処方が一般的です。これに対して抗血小板薬とACE阻害薬、β遮断薬が処方されている患者さんであれば、心筋梗塞などの冠動脈疾患を伴う心不全である可能性が高く、ACE阻害薬やβ遮断薬は心保護作用を期待して処方されていると考えられます。薬剤師としての専門知識と患者さんからの聴取をもとに、個別に病態を推測しながら個別性の高い服薬指導を行うことが、適切な疾患管理につながります。
*慢性心不全の適応を持つ降圧薬
<文献>
| ※1) |
Gislason GH, et al: Increased mortality and cardiovascular morbidity associated with use of nonsteroidal anti-inflammatory drugs in chronic heart failure. Arch Intern Med, 169(2) :141-149, 2009. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/19171810/ (2026年8月21日閲覧) |
| ※2) |
Joshi GP, et al: Cardiovascular thromboembolic adverse effects associated with cyclooxygenase-2 selective inhibitors and nonselective antiinflammatory drugs. Anesth Analg, 105(6) :1793–804, 2007. https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/18042885/ (2026年8月21日閲覧) |
| ※3) |
医薬品医療機器総合機構:全身作用が期待されるNSAIDs(医療用)の「使用上の注意」の改訂について.
https://www.pmda.go.jp/files/000271182.pdf (2026年8月21日閲覧) |
| ※4) |
厚生労働省:高齢者の医薬品適正使用の指針 総論編の概要.
https://www.mhlw.go.jp/content/11120000/001728351.pdf (2026年8月21日閲覧) |
| ・ | 循環器病薬剤師ネットワーク:こんなときどうする?薬剤師のための循環器ポケットブック,じほう,2026. |
<取材・監修>
芦川 直也 先生
医療法人 澄心会 豊橋ハートセンター 薬局長
1998年千葉大学大学院薬学研究科修了。県西部浜松医療センター(現:浜松医療センター)を経て2007年豊橋ハートセンターに入職。心不全療養指導士。循環器病薬剤師ネットワークを立ち上げ、薬剤師のスキルアップのための最新の知見の発信や教育等にも注力。同ネットワークメンバーによる共著に「薬剤師のための ここからはじめる循環器」(羊土社)、「こんなときどうする?薬剤師のための循環器ポケットブック」(じほう)がある。
この記事は2026年7月現在の情報となります。

