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睡眠時無呼吸症候群(SAS)と
心房細動の関連性と
早期発見における薬剤師の役割

取材協力:東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授 池田 隆徳 先生

睡眠時無呼吸症候群と循環器疾患に共通するリスク

睡眠呼吸障害(Sleep Disordered Breathing:SDB)と循環器疾患の関連についてはさまざまな報告がなされており、SDBの代表的な疾患である睡眠時無呼吸症候群(Sleep Apnea Syndrome:SAS)がある人は心房細動のリスクが高まることがわかっています。

――SASと循環器疾患の関連について教えてください。

循環器疾患の発症には喫煙や糖尿病、高血圧、脂質異常症、肥満との関連が大きいことがわかっていますが、近年このなかにSASの要素が加わってきました。SASの患者さんに心血管イベントが多いということは以前から少しずつ知られていましたが、日常の臨床においてもその傾向があると感じています(表)。

表 SDBの合併頻度が高い主な循環器疾患

・心房細動
・高血圧
・糖尿病
・慢性腎臓病
・急性冠症候群
・心不全
・脳卒中
・大動脈解離
・大動脈瘤
・肺高血圧症

ただし、心房細動にSASを合併した症例の経験は少なく、SASがある患者さんが心房細動を発症する、もしくは心房細動の患者さんを調べたらSASが隠れていたというケースがほとんどです。

SASによる心房細動治療への影響

――貴院ではどのように心房細動の患者さんに対するSASのスクリーニングを行っているのでしょうか。

心房細動の患者さんでSASが隠れている可能性が考えられるのは、心房細動がなかなか改善しない、治療が難しい患者さんです。治療を進めるためには心房細動が改善しない原因を探る必要があり、その原因のひとつとしてSASの可能性を念頭に置いています。

SASは睡眠中に無呼吸や低呼吸が生じるため、患者さん自身が睡眠障害に気づいていないことがあります。そのため、生活状況の聴取時に「睡眠障害はありませんか?」と確認しています。患者さんから「最近いびきが強いと家族に指摘されている」「日中に眠気がある」などの睡眠に関する情報が得られた場合にはSASが隠れている可能性を伝え、当院の睡眠時呼吸障害センターの受診を勧めています。実際にSASがある場合、経鼻的持続陽圧呼吸(Continuous Positive Airway Pressure:CPAP)療法を開始することでSASも心房細動も改善するというケースが少なくありません。

――カテーテルアブレーション後の心房細動の再発にもSASが関連しているのでしょうか。

心房細動の多くは、肺静脈内から発生する異常な電気興奮が原因です。これに対して肺静脈の周囲を焼灼(肺静脈隔離術)するのがカテーテルアブレーション治療です。肺静脈の周囲が適切に焼灼されていれば心房細動が再発することはまずありません。それが心房細動の根治が望めるというカテーテルアブレーション治療の特徴でもあります。

ただし、肺静脈以外での期外収縮があったり、解剖学的に肺静脈の周囲を焼灼しきれなかったりする患者さんの場合、カテーテルアブレーション後にも心房細動が発生することはあります。その患者さんにSASがある場合には、SAS治療からのアプローチによって心房細動の再発を予防できることがあります。

当院はカテーテルアブレーションの実施件数が多いですが、なかには侵襲的な治療は受けたくないという患者さんもいます。SASと共通するリスクがあり、侵襲的な治療を受けたくないという患者さんには睡眠時呼吸障害センターの受診を勧め、SASの有無を確認することもあります。

SASがある心房細動の患者さんに対する指導のポイント

――SASがある心房細動の患者さんに対する薬物治療、生活指導のポイントを教えてください。

SASがあることで心房細動の治療が難しくなる理由に自律神経系の影響が考えられます。当院ではホルター心電図で自律神経の解析を行っていますが、実際にSASの患者さんでは交感神経が優位になっているケースが多くみられます。心房細動の薬物治療として心拍数調節(レートコントロール)療法を行う場合、SASがある患者さんに対してはβ遮断薬を選択します。交感神経の働きを抑える作用があるβ遮断薬は、交感神経が優位なSASのある患者さんにも使いやすい薬です。また、同時に呼吸器内科と連携してSASの治療であるCPAP療法を開始します。

生活面では、飲酒の影響が大きいと感じています。特に就寝前の晩酌をやめるだけでSASも心房細動も改善したケースが少なくありません。患者さんへの生活指導では節酒を、特に就寝前の飲酒はやめるように伝えることがポイントになると思います。

――共通するリスクを抱える患者さんに対し、薬剤師はどのような指導を行えばよいでしょうか。

日常の服薬指導の場面では、高血圧や不整脈の治療を受けている患者さんや肥満がある患者さんに対し、「最近よく眠れていますか?」「食事は何時ごろに食べていますか?」といった生活状況を聞き取ってもらうのが良いと思います。眠れていなかったり、日中の眠気で仕事が手につかなかったり、就寝前に暴飲暴食をしていたりする人はSASが隠れている可能性も考えられます。聞き取った情報から、呼吸器内科への受診勧奨を行うことで、早期発見や心房細動の発症予防につながります。

一方で、肥満がなくても小顎の人はSASになりやすいこともわかっています。小顎の人は就寝中に舌根沈下が生じやすく、気道が狭くなるため無呼吸を起こしやすくなります。顔の輪郭などの特徴から睡眠についての聞き取りを行うことも大切です。

SASのリスクが高い患者さんに対しては、まずは家族の協力を得て就寝中のいびきの有無を確認してもらったり、家庭にパルスオキシメーターがある場合には指につけた状態で就寝し、無呼吸のときの酸素飽和度を確認してもらったりする方法をアドバイスするのも一案です。生活面では、就寝前の飲酒をやめることのほかに舌根沈下が起こりにくい横向きの姿勢で寝るなどの指導が役立ちます。

――SASがある患者さんの心房細動の早期発見のポイントを教えてください。

心房細動の患者さんの約半数は無症状だといわれており、SASの患者さんのなかにはすでに無症状の心房細動を発症している可能性があります。SASの患者さんの心房細動の早期発見には、生活のなかで検脈を習慣づけることが大切です。

検脈は手首で脈がとれることが多いですが、薬剤師が実際に患者さんの目の前でやってみせたり、患者さんと一緒に検脈を行い、脈に触れたかどうかを確認したりすることも重要だと思います。なかには手首では脈が触れにくい患者さんもいますので、首での検脈なども合わせて指導するとよいでしょう。患者さんが正しいやり方を理解できることが習慣化につながります。

――患者さんへの指導を行ううえで薬剤師にはどのような役割を期待していますか。

SASは心房細動以外にも心筋梗塞をはじめとする心血管イベントのリスクになることがわかっています。SASと循環器疾患の関連について理解している患者さんは少なく、SASで呼吸器内科を受診している患者さんでも循環器疾患のフォローができていないケースは少なくありません。薬剤師が生活面での聞き取りや指導にも積極的にかかわることで、SASも心房細動も早期発見につながることを期待しています。

本記事は2024年1月に取材したものです。

<文献>

※1  Masaki Ohsawa et al; Rapid increase in estimated number of persons with atrial fibrillation in Japan: an analysis from
national surveys on cardiovascular diseases in 1980, 1990 and 2000. J Epidemiol, Sep;15(5):194-6. doi: 10.2188/jea.15.194. 2005.
e-ヘルスネット:睡眠時無呼吸症候群/SAS
https://www.e-healthnet.mhlw.go.jp/information/dictionary/heart/yk-026.html
日本循環器学会ほか:2023年改訂版 循環器領域における睡眠呼吸障害の診断・治療に関するガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_kasai.pdf

東邦大学大学院医学研究科循環器内科学 教授

池田 隆徳先生

1986年東邦大学医学部卒業。東邦大学医学部第三内科助手、米国シーダス・サイナイ医療センター&UCLA留学を経て、2002年杏林大学医学部第二内科講師に就任。同大学助教授(准教授)、教授を務めた後、2011年東邦大学大学院医学研究科循環器内科学、同医学部内科学講座循環器内科学分野教授に就任。翌2012年に同大学医療センター大森病院循環器センター長に就任。2024年に同大学医学部長・大学院医学研究科長に就任し、現在に至る。国際ホルターノンインベイシブ学会理事長、国際心電学会常務理事、日本循環器学会理事、日本不整脈心電学会理事、日本心血管協会理事長、日本心臓病学会代議員、日本内科学会評議員、日本心血管脳卒中学会役員などを務める。専門分野は循環器内科学(不整脈・心電学)。

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