PDF

持続グルコース測定(CGM)の意義と
血糖変動が大きい糖尿病患者の特徴

取材協力:順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授 綿田 裕孝 先生

自己血糖測定(SMBG)と持続グルコース測定(CGM)の特徴

血糖値は、食事や運動などの影響を受けて一日のなかでもまた、日日間でも変動します。現在、臨床で糖尿病患者さんの血糖コントロールの指標となっているのはHbA1cですが、これは測定日より過去1~2か月前までの平均的な血糖値を反映したもので、1日のなかで血糖がどのように変動しているのかは評価できません。そのため、インスリン製剤を使用している患者さんでは、血糖コントロールを良好に保つために自己血糖測定(SMBG)や持続グルコース測定(CGM)による血糖測定を行う必要があります。

――SMBGとCGMにはどのような違いがあるのでしょうか。

SMBGはインスリン製剤の使用が血糖値の変動にどのように影響しているのかを評価するために行うもので、医師に指示された回数、タイミングで患者さんが血糖測定を行います。なかには毎食前・食後に測定が必要な患者さんもいます。指の先などから採血を行い、センサーを血液につけることで、測定時の血糖値をピンポイントで把握することができます。

一方、CGMは皮下の間質液中のブドウ糖濃度を持続的にモニターし、その数値から血糖値を類推するものです。SMBGはピンポイントでの血糖測定のため、1日数回測定しても日中のおおよその血糖変動しか把握できないのに対し、CGMは血糖変動をみることができる点がメリットといえます。

――CGMの測定はどのような患者さんで行われているのでしょうか。

膵β細胞からのインスリンの分泌能がある程度保たれている患者さんの場合、1日のなかでも血糖値の変動範囲はそれほど大きくなりませんが、とくにインスリン分泌能が残っていない、あるいは非常に低く、追加インスリン注射を必要とするような患者さんの場合は変動が大きくなります。

血糖変動が大きい患者さんの管理でもっとも重要なのが、低血糖を防ぐことです。インスリンには基礎分泌と追加分泌がありますが、患者さんごとに血糖の変動を確認しながら基礎インスリンを補充するべきなのかや追加インスリン分泌を補充すべきかを選択することで、血糖値の変動幅を抑え、低血糖を防ぐことができます。このようなことから1日のなかで持続的に血糖値が類推できるCGMは有用なものと考えられています(図)。

図 CGMによる血糖変動測定(イメージ)

CGMによる血糖変動測定

CGMによる血糖変動評価の糖尿病治療への影響

――貴学のグループによる2型糖尿病患者さんを対象にしたCGMによる血糖変動や低血糖の評価に関する研究についてお教えください。

この研究は2型糖尿病患者さんを対象に、CGMによる血糖変動の評価がどのような患者さんに有用なのかなどを検討したものです。同じHbA1cの患者さんでもインスリン製剤やSU薬が必要な患者さん、高齢者、腎機能障害がある患者さんは1日のなかで血糖変動が大きく、血糖値が低血糖域と高血糖域内にある割合が高い、つまり低血糖を起こすリスクが高いことが明らかとなりました。

2型糖尿病で低血糖を起こしやすい患者さんでは死亡率が高くなることが報告されており、低血糖の高リスク患者さんを適切に評価し、血糖管理を行っていくことが重要となります。

また、血糖変動の指標は糖尿病患者さんの動脈硬化とも関連しており、血糖変動が大きい患者さんに対しては、動脈硬化への警戒を促しつつ、患者さんに情報を提供しながら治療を選択していく必要があると思います。

糖尿病治療における服薬指導のポイント

――糖尿病では新しい治療薬の登場が続いており、薬の選択肢も増えています。薬剤師にはどのような役割が求められるのでしょうか。

糖尿病の治療は患者さんごとに治療方針を立ててチームで治療を進めていきます。この方針のもとに医師は薬を処方していますが、とくに院外の調剤薬局の薬剤師の場合、患者さんごとの治療方針を意識せず、一般的な調剤や服薬指導を行っているのが現状ではないでしょうか。しかし、同じインスリン製剤であっても、すべての患者さんに医師は同じ用法・用量で処方しているわけではなく、看護師の指導においても患者さんごとに違っています。治療方針や医師の処方の意図を理解しないまま服薬指導をしてしまうと、医師や看護師から受けていた指導内容と異なる場合があり、患者さんに混乱が生じる恐れがあります。

――患者さんの混乱を防ぐためには、どのようなことを心がければよいのでしょうか。

まず患者さんに医師や看護師からどのような指導を受けているのかを確認し、薬剤師がその情報から医師の処方の意図をくみ取ったうえで服薬指導を行うのがよいのではないでしょうか。患者さんに確認することで、患者さんが医師や看護師の指導をどの程度理解できているのかも把握できます。

糖尿病では新しい薬が増えています。医師の処方の意図を理解するためにも薬剤師には各薬剤の作用機序や副作用、服用時の注意点などの情報を常にアップデートし、服薬指導にあたってもらいたいと思います。

本記事は2024年4月に取材したものです。

<文献>

Hidenori Yoshii, Tomoya Mita et al: The importance of continuous glucose monitoring-derived metrics beyond HbA1c for optimal
individualized glycemic control. Journal of Clinical Endocrinology and Metabolism,2022 Sep 28; 107(10): e3990-e4003.
順天堂大学:ニュース&イベント 持続グルコース測定が有用な糖尿病患者の特徴を明らかに― HbA1cによる血糖コントロール評価の限界 ―
Tomoya Mita, Naoto Katakami: Continuous glucose monitoring-derived time in range and CV are associated with altered
tissue characteristics of the carotid artery wall in people with type 2 diabetes.Diabetologia, 66: 2356–2367, 2023.
(2024年5月1日閲覧)
日本糖尿病協会:患者さんとその家族のための糖尿病治療の手びき2023-改訂第58版増補-.

順天堂大学大学院医学研究科代謝内分泌内科学 教授

綿田 裕孝先生

1990年大阪大学医学部卒業。桜橋渡辺病院循環器内科医員を経て大阪大学大学院修了後、米国カリフォルニア大学サンフランシスコ校に留学。2001年順天堂大学内科学・代謝内分泌学講師、2006年同大学助教授、2007年同大学先任准教授を経て、2010年に同大学教授に就任(現職)。2020年より日本学術振興会学術システム研究センター専門研究員を務める。日本糖尿病学会専門医・指導医、日本内分泌学会専門医・指導医、日本内科学会認定医・専門医・指導医、日本医師会認定産業医。日本糖尿病学会常務理事、日本糖尿病・肥満動物学会常務理事、日本体質医学会理事、日本内科学会評議員、日本内分泌学会評議員、日本臨床分子医学会評議員、日本肥満治療学会評議員など。専門分野は糖尿病・内分泌学。

×
第一三共エスファ株式会社の管理外にある
ウェブサイトに移動します。

TOP