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がん患者さんの静脈血栓塞栓症リスクと抗凝固療法の進め方

取材協力:並木クリニック 孟 真 先生

活動性がんが静脈血栓塞栓症高リスクとなる要因

静脈血栓塞栓症は、発症時の病態だけでなくリスクに応じて治療を選択します。このうち高リスクに分類されるもののひとつに活動性がんがあります。日本循環器学会と日本肺高血圧・肺循環学会が2025年3月に発表した「2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン」(以下、ガイドライン)では、「がん関連VTEの評価と薬物療法」の項目が追加された点からも、がんと静脈血栓塞栓症の関連の深さがわかります。ガイドラインでは、リスク因子としてのがんだけでなく、がん患者さんに対する静脈血栓塞栓症の評価と薬物療法についてもエビデンスが示されました。

――がんがあることで静脈血栓塞栓症のリスクが高まる要因についてお教えください。

がん患者さんの静脈血栓塞栓症リスクは、非がん患者さんに比べて高く、静脈血栓塞栓症は、がん治療中の合併症のひとつとなっています。

静脈血栓塞栓症の発症には、「Virchow(ウィルヒョウ)の3徴」である(1)血流の停滞、(2)血管内皮傷害、(3)血液凝固能亢進の3つが関与しています。活動性のがんやその治療に伴い、Virchowの3徴で示された状況が起こりやすくなります。

(1)の血流の停滞には、体調不良などによる脱水、安静臥床の長期化といった要因があげられます。(2)の血管内皮傷害は、がんの外科手術やがん化学療法・中心静脈栄養のために挿入する静脈ラインなど、治療に伴って生じるケースが多いといえるでしょう。また、治療に伴うものだけでなく、浸潤がんによって血管が傷害されることもあります。(3)の血液凝固能亢進は、がん細胞から放出される物質によって起こることがわかっています。つまりがん患者さんは、がんがあることやその治療を受ける過程で、「Virchowの3徴」のすべての要因を常に抱えていることになるため、静脈血栓塞栓症の高リスクに該当するわけです。

また、高リスクであるがん患者さんに対しては、積極的にリスク評価を行うことが結果として静脈血栓塞栓症の頻度が高くなる要因のひとつになっているともいえるでしょう。症状がある場合はもちろんですが、無症候性の静脈血栓塞栓症は、スクリーニングを行わないと見つからないため、リスク評価を行えば行うほど多くの静脈血栓塞栓症が発見されるという側面もあると思います。

――がんの種類によって静脈血栓塞栓症の発症率に違いはあるのでしょうか。

これまでの調査研究で、静脈血栓塞栓症の発症率が高いとされているのは、膵臓がん、胃がん、脳腫瘍です。ただし、膵臓がんは胃がんなどに比べて患者数が少なく、あくまでも膵臓がん患者さんのなかで静脈血栓塞栓症を発症する人の割合が高いという点は考慮が必要となるでしょう。また、膵臓がん自体が予後不良のがんであることから、静脈血栓塞栓症に対する抗凝固療法などが膵臓がん自体の生存率の改善には影響しないといわれています。

このほか、卵巣がんや子宮がんなどでは腹部腫瘤による血液のうっ滞が生じやすいため、静脈血栓塞栓症の発症リスクを高めるといわれています。

がん患者さんに対する静脈血栓塞栓症の予防と治療

――入院中のがん患者さんに対しては、どのような静脈血栓塞栓症の予防対策が行われているのでしょうか。

がん患者さんは、がんがあるだけではなくその治療によってもさらに静脈血栓塞栓症のリスクが高まることから、入院中も弾性ストッキングや間欠的空気圧迫療法などの理学療法による予防管理を行っています。また、がんの手術後は早期離床、歩行開始が一般的になっていますが、これも静脈血栓塞栓症の発症予防において重要なポイントになります。

静脈血栓塞栓症の既往があるハイリスク患者さんや、中枢型の深部静脈血栓症や肺血栓塞栓症が見つかった患者さんには、がん治療と並行して抗凝固療法を行います。

また、EGFR遺伝子変異陽性で切除不能な進行・再発の非小細胞肺がんに対する一次治療の選択肢のひとつとなっているアミバンタマブ(遺伝子組換え)とラゼルチニブメシル酸塩水和物の併用投与では、投与開始後4か月間は抗凝固薬のアピキサバンの経口投与を行うことが添付文書にも明記されています。両剤の併用投与では、静脈血栓塞栓症の既往歴の有無を確認したうえで投与の可否を判断し、投与後にも静脈血栓塞栓症の初期症状について十分な観察を行う必要があります。

がんの有無自体がリスク因子でもありますが、その治療によって静脈血栓塞栓症のリスクが高まることも理解したうえで症状の有無などを確認することが重要となります。

――がん患者さんに対する抗凝固療法の進め方についてお教えください。

がん患者さんが静脈血栓塞栓症を発症した場合でも非がん患者さんと治療方針は類似しています。リスクの低い患者さんや一時的なリスクの人の場合は抗凝固療法を3か月継続するのが一般的ですが、活動性がんの患者さんは再発リスクが高い状態にあるため、活動性がんがある間は基本的に抗凝固療法を継続します。

ただし、ここで注意が必要なのは、がん患者さんは非がん患者さんと比べて出血リスクが高いという点です。そのため、活動性がんであっても抗凝固療法を継続することができないケースもあります。抗凝固療法の継続の可否は最終的には出血リスクと静脈血栓塞栓症のリスクのバランスで決定されます。また、がんが治癒すると再発リスクが低下し、非がん患者さんと同等になるため抗凝固療法が中止されます。しかしその後でも、がんが再発すれば再び静脈血栓塞栓症が高リスクになることも覚えておきましょう。抗凝固療法の中止または継続による再発抑制のメリットと出血リスクについては、病状や治療の変更ごと、通常は少なくとも3か月ごとに評価、検討します(図1)。

図1 がん患者さんに対するDOACによる静脈血栓塞栓症治療例

がん患者さんに対するDOACによる静脈血栓塞栓症治療例

そして、がんが治癒した場合は抗凝固療法を中止できる可能性もあります。通常、がんが治癒した場合には非がん患者さんと同等のリスクとなります。

――がん患者さんにおけるリスクとメリットの判断はどのような点が考慮されるのでしょうか。

抗凝固療法の継続期間は、がんの状態だけでなく病態やその他のリスクなども含めて個別に判断することになりますが、たとえば、重篤な肺血栓塞栓症を発症した患者さんの場合、出血リスクが上回らない限り抗凝固療法を継続するケースが多いといえるでしょう。

また、非がん患者さんでは抗凝固療法の適応にならないことが多い無症候性の末梢型深部静脈血栓症に対しても、がん患者さんの場合は積極的に抗凝固療法を検討することが多いといえます。末梢型深部静脈血栓症に対するエドキサバンの治療期間を検討したONCO DVT Study(RCT)では、抗凝固療法を3か月継続した場合と、12か月継続した場合では、12か月継続したほうが静脈血栓塞栓症の発症が少なかったという報告もあるため、出血リスクに十分留意したうえで治療継続の有無を判断することになります。

抗凝固療法を継続するがん患者さんの服薬管理

――抗凝固療法中の服薬指導についてお教えください。

がん患者さんは非がん患者さんに比べて下血や喀血などによる出血リスクが高いため、もっとも重要なのは出血対策、対応になります。出血があった場合の対応や医療機関に連絡が必要なケースについては丁寧に指導してもらえればと思います。

一方でがん患者さんは静脈血栓塞栓症の再発リスクが高いこと、既往歴があることも再発リスクである点に注意が必要です。静脈血栓塞栓症による症状の有無は受診時に医師が確認をしていますが、調剤薬局でも足の腫れや息切れなどの症状がないかを確認してもらうことが早期発見につながります。

――がん患者さんの抗凝固療法について、服薬管理の注意点をお教えください。

がんは専門的な治療が必要となる場合も多く、がん治療を受けた医療機関で抗凝固療法を開始した場合でも、退院後は地域の医療機関で抗凝固療法を継続することがあります。こうしたケースでは、がん治療の状況がわからないまま抗凝固療法を継続している可能性もふまえて、患者さんにはその都度医師からどのような説明を受けているのかを確認しましょう。

すでにがんが治癒してがん治療が終了しているにもかかわらず抗凝固療法を継続している患者さんに対しては、患者さんから医師に確認してもらうなど、継続の理由を明らかにしたうえで服薬管理、指導を行うことが大切です。

本記事は2025年11月に取材したものです。

<文献>

(参考)日本循環器学会/日本肺高血圧・肺循環学会:2025年改訂版 肺血栓塞栓症・深部静脈血栓症および肺高血圧症に関するガイドライン.
https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2025/03/JCS2025_Tamura.pdf
(2025年11月27日閲覧)
孟真先生

並木クリニック 

孟 真 先生

1984年群馬大学医学部卒業。横須賀米軍海軍病院、横浜市立大学医学部外科治療学教室、カリフォルニア大学サンディエゴ校留学などを経て、2002年横浜南共済病院循環器センター勤務、翌2003年より同院心臓血管外科部長、2018年より同院院長補佐・循環器センター長を兼務。横浜市立大学医学部臨床教授。2024年より並木クリニック勤務、横浜市立大学客員教授、横浜南共済病院心臓血管外科顧問。心臓血管外科認定機構心臓血管外科専門医・指導医、日本外科学会外科専門医・指導医、下肢静脈瘤血管内治療医・指導医、大動脈ステントフラフト指導医、日本血管外科学会血管内治療医、日本フットケア学会フットケア認定師。

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